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(通訳さん視点です)
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約束の日、指定されていた飛行機は遅れることなく彼女をアメリカまで連れてきてくれた。
待ち合わせ場所に指定したコーヒーショップの前で立っていれば、恐らく春野さんであろう女性が歩いてきた。
「水原一平です、初めまして」
「はじめまして、水原さん。春野Aです、今回は突然すみません」
最初の印象は、綺麗で仕事が出来そうな女性。
女子アナとか苦手、っていう翔平が選んだ人って一体どんな女性なんだろうと思っていたけど、妙に納得してしまった。
海外用にしては、少し小さなスーツケースは、普段の移動に使っているものなのだろうか。
オフホワイトが眩しい半袖のサマーニットに、すらっとした細身の黒のパンツ。そこにロイヤルブルーのバッグ。シンプルな服装なのに、不思議と華がある。
そんな彼女に少しばかり目を奪われていれば、彼女は少し眉を下げ、困ったような感じで笑った。
「あ〜……会って早々こんなことを聞いて申し訳ないんですけど、翔平くんは相変わらずですか?」
「……うん、部屋にこもったまま」
「そうですか……なかなか手強そうですねぇ」
顎に手を当て、うぅんと唸る春野さん。幼さの残るその姿に、こんな時だけど吹き出しそうになる。
それをグッと堪えて、なんとかその言葉の真意を問いただした。
「手強い?」
「そうですよ。だって今回の私たちのミッションは翔平くんを元気にして部屋から出すことですから」
「そっか、そうだね」
彼女は真剣に言っているのだろうけど、ミッションという言い方をするのが可笑しくて、ついつい笑い声を零してしまう。
すると、少しだけ不満げな膨れ顔でこちらを見あげてきた。
「ふふ、ごめんね。最近ちょっと気を張ってることが多かったからか……少し気が抜けちゃったみたい」
「む、それは怒るに怒れないです」
「はは、じゃあスルーしてもらって……ミッション開始といきましょうか、春野さん」
そう言って左手を差し出せば、彼女はノリよく右手を重ねて笑ってくれた。アメリカですねぇ、なんて言う彼女を見ながら、この人なら、なんて柄にもなく祈ってしまった。
(あと、僕のことは一平でいいですよ。みんなそう言うんです)
(じゃあ私もAで。チームでもそう言われてるので)
(よろしくお願いします、A……ちゃん?)
(ふふ、頑張りましょう、一平さん)
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LA着! 次の次には翔平くん出せる……はず!🥹
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作者名:haru | 作成日時:2023年5月3日 0時