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(通訳さん視点です)
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何事もなければいい。ただの疲労から来るもので少し休めば治るもの。そうであればいい。
そんな翔平の腕に関する楽観的すぎる俺の考えは、物の見事に打ち崩された。
『投手としてのシーズンは絶望的だ』
『手術も検討した方がいい』
そんな言葉を訳しながら、それでもどこか現実として受け入れられない自分がいた。
目の前に座る翔平がどんな顔をしているのかもろくに見ることが出来ないまま、かける言葉も思いつかないまま。
自分の不甲斐なさに苛立ちながらも、ただ淡々と翔平を家まで送り、自分も帰路に就いた。
家に着いてからも、もやもや、いらいら、そんな気持ちでいた所に、ピコンと軽快なトークアプリの通知が鳴った。
ー
春野A休みがとれたので、そちらにお邪魔します
春野Aこちらの飛行機で向かうので、翔平くんのスケジュール教えてくださると嬉しいです
春野A[飛行機のチケットのスクショ]
ー
「……本当に来るんだ」
ついこの間、連絡を取ったばかりの相手からのメッセージに、思わず本音がぽろりと零れてしまった。
だってまさか、翔平のピンチとはいえ、仕事休んでまで来るとは思わないだろ。だから電話を切る直前に伝えられたあの発言も、正直半信半疑だった。
けど、こうやって飛行機の時間まで指定してきたってことは本気ってことだ。
自分の大切にしているであろう仕事を削ってまで、彼女は翔平のところに来ることを選んだ。……それってすごいことじゃない?
そんなことを思いながら、返事を打ち込む。
ー
多分、翔平は家にいると思うので、良ければ僕が迎えに行きましょうか
春野A本当ですか?助かります!
春野Aあ、ご迷惑じゃなければ、ですけど
全然、問題ないです
当日、空港でお待ちしてます
春野Aありがとうございます!
ー
普通なら来たところで何ができるんだ、って思うのかもしれないけど、彼女の場合は違うだろうな。だって、あの翔平がベタ惚れで、ずっと好きだったんです、なんて言う相手だし。
彼女の存在が、なにか事態が好転するきっかけになってくれれば。
そんな祈りを込めながら、スケジュール帳に新しい予定を書き込んだ。
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次回、やっとAちゃんがLAにたどりつけそうです でも、翔平くんは出てこないです、どうして
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作者名:haru | 作成日時:2023年5月3日 0時