◎ W ページ6
できない。
できない。
できない。
「1回休憩しよー。ちゃんと水分取れよー。」
｢休憩したがりふっかさん。｣
｢ちょっとは最年長労わってよお。｣
｢同い歳なのに、佐久間くんはあんなに元気だよ？｣
｢佐久間は普通の人間じゃねえもん。｣
｢おい！化け物に言われたくない！｣
ふかの声掛けで各々メンバーが休憩を取り始める中、踊り続けていたわたしの鼓膜を、ひかるの低い声が揺らす。
｢A、｣
「……」
「A、休憩だって。」
「……やだ。」
「おい、」
あー、絶対怒ってるなあ、ひかる。
動きを止めて顔を上げると、案の定怒った様子のひかるが目の前に立ちはだかる。目が合うと眉を下げて優しい表情をするから、申し訳なくなる。
「いっぱいいっぱいになると、Aはひとりで突っ走っちゃうから。焦んな、休憩も仕事。」
「でも、迷惑かけたくないから。ただでさえみんなのペースに追いつけてないのに、休んでいられないもん。」
｢俺らがペース合わせるから。大丈夫、1人にしない。｣
……わたしのせいで。
ありがたいことに、各々個人の仕事を頂けるようになってから、10人揃って振り入れする事すら難しくなってきた。
今年も歌舞伎が決まって、稽古含めて準備期間に入る。
でも、私は女だから、その舞台には立てない。
だからこそ、
わたしがみんなの歩む足を止めるわけにはいかなくて。
焦る気持ちと、心に募る不安。
結局今日は、最後まで納得がいかないまま終わった。
この後すぐに次の仕事に向かうメンバーもいれば、歌舞伎の打ち合わせの為に移動するメンバーもいる。そんな中、鏡の前に立ち尽すわたし。
この時期になると特に、
疎外感や寂しさ、孤独感に押し潰されそうになる。
わたしも男だったら、
もっとこのグループに貢献できたのかな、
と、不甲斐なさで苦しくなる。
毎年のように、この時期は少しだけメンバーから距離を置くようにしている。それに気付いているメンバーは、それぞれの対応で理解を示してくれるから、結局この状況に甘えているだけなんだけど、ね。
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作者名：は む | 作成日時：2023年3月5日 3時
