【Fischer's】君と溺れる【短編集】

僕の中<Zakao>真紘さんﾘｸ ページ25

「A、ばいばい」

「ばいばい」

昇降口で、幼なじみのAに声を掛けた。
帰ってきたのは、気の抜けたような声。
そのまま、肩を落として帰っていく彼女の背中を見送る。
何かあったのか考えて、さっきの事が頭に浮かんだ。

(モトキの事だな)

直感でそう思った。
モトキに帰る誘いを断られてしまったから、落ち込んでいるのだと。
寂しそうに、モトキを見つめるAの姿が目に焼き付いていた。

(そう言えばあいつ、最近彼女が出来たって言っていたような……)

そうなると、Aの失恋は決まったようなものか……
気の毒に思いながらも、俺にもチャンスがあるんじゃないかって、
そう心のどこかで思った自分を一発殴りたかった。

モヤモヤした気持ちを持ったまま、帰路を歩いていると、
近所の公園で、さっき見た背中を見つけた。
ブランコを漕ぐ音と、砂を蹴る音。
ゆらゆらと揺れている君に、そっと近づいて、

「何してんの？」

その背中に声を掛けると、振り返ってふにゃり、と笑う君。
その笑顔の中には、寂しさが混ざっていて、俺の事じゃないのに胸が痛んだ。

「モトキってさ、嘘つきだよね」

俺が隣のブランコに腰をかけようとした時、不意に君がそう言った。

「そうか？」

「うん」

俺が相槌を打つと、"だってね、"と一呼吸置いて続けた。

「小学生の時、結婚してとか言ってきた癖に、彼女作っちゃってんの。
本当、嘘つきだよね」

あはは、と乾いた笑い声。
君は今にも泣きそうだ。

「……私、モトキが良かったな」

ポツリ、と呟く彼女の言葉が耳に残る。

「俺は、Aがいい」

「えっ」

無意識に出てしまった言葉を、彼女はちゃんと聞いていて、
ビックリしたような目でこちらを見る。

ここまできたら、引き返すのは男らしくない。
もう無かったことには出来ないぞ。
そう自分に言い聞かせて、そっと深呼吸。

「俺じゃ駄目かな」
「Aは俺が幸せにしたい。
モトキでも、他のやつでも無くて、俺が！」

勢い余って続け様に恥ずかしい事を言ってしまったけど、気付いた時には彼女を抱き締めていた。

君は今、俺の腕の中で何を思っているの？

「返事は今じゃなくていい、ちゃんと考えて欲しい」

「分かった」



返事が良かろうと、悪かろうと、俺が君を好きなのはきっとこの先も変わらないだろうな。


※一応"嘘ばっか"と繋がっています。

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