４〈魔女雨の終幕〉 ページ34
そして、私は目を覚ましたのだった。
一度、辺りを見回してみる。白い壁に囲まれ、質素な机やベッド、タンスが置かれている。間違いなく、児童養護施設の私の部屋だった。
呼び起こされた記憶を思い出す。
私は、ブラック様という堕天使に拾われ、魔女となり、幸せな生活を送っていたところを、自分自身の手で壊して、でも最期には最高に幸せな末路を迎えた。
「全部、思い出した」
……果たして、『思い出した』のか？
和らいでいく頭痛を傍に、私は疑問を覚える。先程の記憶は、確かに鮮明で、実際に体験したような感覚がした。
しかし、あの記憶の末、私は死んでしまったのだ。ならば、私は今、どうして生きている？それにどうして、私は孤児院に戻ってきてしまっている？
ーーー全部全部、“夢”だったのではないか？
タンスには、私が四歳の時に着ていた服と、全く同じものが入っていた。サイズもピッタリだったことから、今自分の体は四歳ということだろう。
五年前に、帰ってしまったのか。
私は部屋を出て、一階の食堂へと向かっていった。
Bellaはいるのだろうか。今が五年前なのだとしたら、まだ私が彼女たちにいじめられていた時期だ。またあの日々に戻るのかと思うと、面倒臭さが込み上げてきて、溜息が出てしまう。
しかし、それからの日々で私がBellaにいじめられることはなかった。彼女も、その友達も、私を見ては無視するだけで、直接的な害は与えてこない。
どんな心境の変化があったのか。そんなことはどうでもいいか。所詮、他人の気まぐれなのだから。
孤児院の外に出てみる。冬が近づいている頃の、薄ら寒い風が吹いていた。
風に乗って、小雨が降りかかる。敢えて両手を雨で濡らしてみると、脳内にあの日々が鮮明に映った。
それと同時に胸がとても苦しくなる。もう二度と、あの笑顔を見れないのだろうか。もう二度と、彼と話せないのだろうか。
「そんなの、嫌です」
嫌だと言っても、どうにもならない。
夢はもう終わってしまった。私は魔女ではなくなった。どれだけ退屈な日々に厭と言っても、魔法が使えなければ絶対にあの世界には行けない。
「………はぁ」
それにしても、穏やかな日々だ。
もとより、Bellaたちのせいで私の日常は億劫になっていただけだから、彼女たちが何もしてこなければ、それだけで平穏ということなのか。
本当に、平穏で、平和で。
つまらない。
＊＊＊
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作者名：U-ray | 作者ホームページ：http://Kegaretakoinitumonakiaiwo0
作成日時：2024年3月25日 23時
