3〈悪魔と魔女の愛と恋〉 ページ31
だから私は、バチバチと音を立てて迫ってくる魔法を前に、防御魔法を展開しなかった。生身で無防備にに避けて避けて、避けきったことを確信して。
こちらの杖から、先程の電撃魔法と同じ、でも威力は底上げしたものを撃ちつけた。大丈夫。消えない程度に調節はしてある。ブラック様を消してしまうだなんて、そんな失態は決してしない。
……しなかった、はずだった。
「っ……!」
ブラック様が、鈍い音を上げた。
よくあるスローモーションのようだった。ゆっくりとした動きで、彼の体が後ろに傾いていく。唖然とした心情で、そんな光景を目にしていた。
結論。ブラック様が、魔法を受けて、倒れてしまった。
「………」
心配よりも、違和感を先に感じた。それは、今までブラック様の撮影に付き添っていたからこそ、生まれた疑問。
ブラック様は、こんな簡単に敗れない。誇張でも何でもない。彼が最強と言っても過言ではないのは、周知の事実だった。それなのに、どうしてあの程度で倒れてしまったのだろうか。
ゆっくり、慎重に、近づいてみる。
「……ブラック様?」
そう呼びかけながら、徐ろに顔を覗いてみた。
素敵な笑顔だった。このヒトがいつも、撮影に心躍らせている時に浮かべる笑みである。
「……ここまで、手加減するつもりは、なかったんですけど」
「!?」
嫌な予感を感じた、次の瞬間だった。目の前が眩しい光に包まれ、私は思い知る。
嗚呼、ブラック様は、手加減してくださっていただけだったのだと。いいや、それでいいんです。それでこそ、私の堕天使様なのですから。
巻き起こる風圧と共に、服や髪は乱れ、持ち上げられていく感覚に包まれる。いや、実際には持ち上げられるよりも、吹き飛ばされている構図に近いだろう。
「かっ!!」
壁に激突する。骨が折れるかのような痛みが、背中を駆け巡った。背中を強く打つと、呼吸ができなくなる。実際私は数秒間、息を吸うことも吐くこともできなくなっていた。
だが数秒もあれば、鎌の刃を私の首元に当てることなど可能だった。すっと当てられる冷たい痛みは、少しでも首を動かせば、簡単に斬れてしまうと確信できてしまう。
「皆さん、見ていますか!この五年間のライブ配信、お疲れ様でした!視聴してくれた皆様のおかげで、ついに、この少女の裏側を撮影できました!!」
五年間、ライブ配信、少女、裏側。彼から発せられた言葉、その意味を一つ一つ捉えながら、背中に走る痛みに耐え続ける。
2人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:U-ray | 作者ホームページ:http://Kegaretakoinitumonakiaiwo0
作成日時:2024年3月25日 23時