1〈魔女雨の誕生〉 ページ3
所謂、『いじめ』というやつだ。所持品が失せること、それらがビリビリに引き裂かれたり落書きをされて戻って来ることなどは日常茶飯事で、時には汚水をかけられたり、刃物で傷を付けられたこともあった。
そして厄介なことに、私がその被害を報告したところで信じてもらえないのだ。彼女たちは既に孤児院でかなりの信頼を築いている上、無駄に証拠隠滅が丁寧なお陰で、あまり証拠も残さない。
本当に、非常にたちが悪い。それでも私は、顔に出さず、上手く誤魔化したり利用したりで日々を送ってきた。
いつか来るその日まで、穏便に隠し通してあげた。
しかし、私は今、そんな酷いことをしてきた彼女たちに感謝せずにはいられない。
だって、お陰で、私は人生で最高の瞬間を、この目で、この肌で、この神経で、感じ取ることができたのだから。
***
12月25日。誰もが楽しく笑顔で過ごす日に、私は一人で、凍えていた。
急に部屋から無理矢理引っ張り出され、腕を強く引かれ、倒れて痛がってみても、変わらず引きずられ、そして。
「Cool down your head」
施設の外に放り出された。外は、とても冷えていて、真っ暗だった。クリスマスだけあって、皆家でパーティでもしているのだろう。歩いている人も、車も、少ない。
私は扉のすぐ横のアスファルト上に座り込む。息を肌に吹きかけ、少しでも暖を取ろうと縮こまった。しかし、布一枚では限度というのもがある。
嗚呼、きっと私は、ここで死ぬのだろう。そんなことを思ってから、私は目を瞑った。このまま眠って、お父さんとお母さんのところに行ってしまおう。そう思ったのだ。
「……………」
ーーー「“Hi”」
「……?」
誰かに、呼ばれた気がして、私はそっと目を開いた。
息を呑んだ。
「Is everything all right?」
優しく、手を差し伸べてきた、黒い人。
満月の逆光で煌き、そよ風に吹かれ、その燃え盛るような黒髪が揺れた。
心臓が、キュッと潰されそうになる。それこそ、死んでしまいそうなくらい、痛い。だが、それが何だか心地よい。
「Who…are……」
貴方は誰か。そう訊く前に、再び瞼が降りてしまった。嗚呼、でもきっと、私を迎えに来てくれた天使様だ。
ここで私は、終わるんだ。そう思って、意識を手放した。
***
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作者名:U-ray | 作者ホームページ:http://Kegaretakoinitumonakiaiwo0
作成日時:2024年3月25日 23時