ブラックと、とある魔女 (ページ20)

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２〈魔女雨の日常〉ページ20

やはり、おかしいとは思った。神様のあの攻撃、見た目だけなら完全に致死量に達しているはずなのに、魔物たちは全員生存していた。
　明確な違和感。しかしその実態は、ただ見た目だけの、中身のない力。
　笑えてくる。

　不意に、書庫の扉の音がガチャンと、勢いよく開けられる音がした。私は素早くビデオプレイヤーからテープを抜き取り、元あった場所に戻そうとした。しかし。
「雨さん！」
　そこで私は、誰かに見つかってしまったが、同時に安堵した。何度も聞いた、耳馴染みのある声。
　声をした方向を見た。嗚呼、ブラック様だった。黒い髪に、黒い服、赤い三角形の光、すぐ隣にはカメラちゃんが浮いている。
「はぁ、ここに居たんですか……」
　心配してくださったのだろうか。何とも可愛らしい表情だ。
　そうか。私が勝手にいなくなれば、ブラック様は慌ててくださるのか。嬉しいなあ。
「ん？それは」
　そんな考えに若干耽っていると、ブラック様は私の持っているビデオテープを指差してきた。そういえば、結局戻せていなかった。
「……すみません。勝手に見てしまいました」
「…そうでしたか。まぁでも、別に見られて困るものではありませんし、大丈夫ですよ」
　口ではそう言ったブラック様は、すぐに私に背を向けて、足早に書庫から出て行ってしまった。私も急いで、彼の後ろを追いかける。閉まりかかった扉を止めて、開いて、階段を駆け上がった。
　少し魔が差しただけなんです。興味本位によるものだったのです。もし、貴方を『天使』とお呼びしたら、一体どんな反応をするのか。
「待ってください、天使様！！」
　そう呼んでみた次の瞬間、ブラック様が足を止めたと思えば、その背中からいかにも悪魔らしい黒い羽を生やして、どこかへと飛んでいってしまった。
「じー？！」
　カメラちゃんも驚いて、急いで彼の後を追いかけた。二人の姿が見えなくなっていく中、魔法を使わなくてはただの人間である私だ、未だ階段に取り残されてしまっていた。
　その後、私が息を切らした状態で地上に出た頃には、既にどこを見渡しても、彼の姿は見えなくなってしまっていた。
「……I see」
　ブラック様、天使と呼ばれるのが嫌なのか。なるほど。
「…I'll prepare something and wait him」
　お詫びの品、やはりチョコレートが良いでしょうか。あとは、カモミールティーとか。
　あーあ、早く帰ってきませんかねブラック様。

　私、寂しさに殺されそうです。