ブラックと、とある魔女 (ページ12)

今日:7 hit、昨日:48 hit、合計:448 hit

２〈魔女雨の日常〉ページ12

一年目。
「I want to learn Japanese！」
　そうブラック様にお願いしたのは、私が魔女になってすぐだった。
　これからの日々、私がブラック様と常に一緒にいるのは難しいと知った。
　たまに彼からは魔法を教えていただいているけど、大体の時間は撮影やら編集やらに費やされる。だから私は、裏方で彼の補佐をするしかないのだ。それでも、彼の役に立てるならば本望だけど。
　とにかく私は、ブラック様の役に立ちたかった。だから、何でも良いから頑張ろうと思ったのだ。日本語を喋れるようになりたいのも、彼にもっと頼ってほしいから。ただそれだけだった。
「…What happend suddenly？」
「Which is easy to talk , Japanese or English?」
「Umm…Japanese is」
　やはり日本語だった。ブラック様は独り言などを呟く際には、必ず日本語を使っていたから、何となく気づいてはいた。
「So,I wanna learn it. Please guve me permission」
　頭を下げて、お願いした。ここまですれば、きっとこのヒトは許可を下ろしてくれるだろう。後ろめたいことも、不都合なことも、何もない筈なのだから。
「……だったら、教えてあげますよ」
「Huh?」
「That mean is “I teach you”」
　目の奥が、ジーンと光る感覚がした。
「Yes！」

　日本語の習得はとても大変だった。文法がまるで違うから、頭の中のパズルが崩壊する時もあった。
　それでも何とか日常生活が送れるほどにはなりました。ブラック様も、「習得が速いですね」と、多分褒めてくださった。
　ところで、一つ気になることができた。
「ブラック様、私の名前は、何と言う、のですか」
「ん？Aですよ」
「いいえwell…日本語で、何と、言うのですか？」
「日本語？」
　よく伝わっていない。そんな言い回しなら伝わるのだろうと、必死に考えても見つからない。もういっそ英語で話した方が良いのではないか、という案が脳内を過ったが。
「あ、もしかして和訳のことですか？」
「あ、多分それ、です」
　『和訳』の意味は後で調べてこよう。
　ブラック様はうーんと悩む素振りを見せる。
「AはAですが、似ている音で『Rain』というのがありますよね。だから、“雨”というのはどうでしょう？」
「はい！私を、雨と呼んで、ください。これからは」
　ようやく、念願だった日本の名前を手に入れられた。これでもっと、ブラック様が楽になれるのだと思うと、とてもとても嬉しかった。