ブラックと、とある魔女 (ページ1)

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1〈魔女雨の誕生〉ページ1

「ーーーHmm…」
　目が覚めると、真っ先に目に映ったのは、真っ白な天井であった。
「……Where is this place？」
　ここはどこなのか。思い出そうとしても記憶に、まるで靄がかかっているようで、手繰り寄せることもできない。
　今頭の中に残っている記憶は、せいぜい言語と、自分の顔と……、それだけだった。
　不安に思いながらも、取り敢えずベッドのすぐ側にあった、大きな窓、青い無地のカーテンで閉じられていたそれを、試しに少し開けて覗いてみた。

ーーーザーザーザー……。

「…雨………What？」
　ぽつりと呟いた言葉のおかしさに気付き、咄嗟に右手で口元を抑えた。
　先程の言葉は、おそらく日本語だった。英語を母国語としている私が話すには、余りにも突発的な言葉だった。
　意味も、しっかり理解できている。もしかしたら、私はこれまでに日本語を勉強していたのかもしれないが、何故、「雨」という言葉だけを……。
「……！！」
　途端に頭に鋭い痛みが走った。そして、立ち込めていた霞が晴れるように、私は少しずつ、確実に、鮮明に、思い出していった。
　私が誰なのか、どうしてここに居るのか……。

＊＊＊

　始まりは、父と母と私の、三人でLondonへ旅行へ行こうとしていた時だった。
「London♪London♪」
　念願の家族旅行に興奮していた私は、終始ウキウキな気分で電車を待っていた。
「A,don't be noisy」母が最初に注意してきた。
「Year,I understand you looking forward to this trip,but you must be quit here」
　そんな父の注意を聞いた私は、一回は「Year」と返事し、大人しくその場でじっとしていたが。
ーーー「The train arriving on fifty line……」
　そんなアナウンスが流れ、もうすぐ電車がやって来ると理解した私は、思わず両親の手を離し、心を踊らせながら走っていった。
「A！！」
　父の呼ぶ声も無視して、私は走る。

ーーーその直後。

　人混みの中を掻き分ける足音。しかしそれは私のものではなく、どこかの誰かさんのものだった。
　その足音は、次第に私の両親のもとへ近づき、そのまま黄色い線の内側にいた、"父"の背中を思いっきり押した。

　手を繋いでいた両親は、母が線路内へ傾くと同時に、父もそれに引っ張られて落ちていった。
　私が走っていた方向とは逆の方から、電車はやって来て、そのまま線路内に落ちた二人を。

ーーーグシャッ。