ハニートラップはお断り【名探偵コナン】 (ページ35)

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第三十四話ページ35

自身の腕の中で静かに泣く彼女の背中を優しくさする。

先ほど聞いた“悩み”は、誰でも悩みそうな内容のはずが彼女の周りの環境のせいで深刻化したものであった。

彼女の生い立ちも聞かせてもらったが、自分の思っていた彼女の情報とはかけ離れたものであった。

彼女曰く、ごく普通の家庭に生れ落ち、その後両親を事故で無くしてから親戚の元へ預けられ、大学に進学してからは一人暮らしを始めたという。

思春期、反抗期と呼ばれる期間に“親戚の家にお世話になる”という環境が“反抗”を許さず、何でも自分で抱え込むようになってしまったのだろう。
身近な人への反抗から得る自立心を彼女は別の方法で得てしまった。

“自己犠牲”から。
相手を困らせたくない
自分が我慢すればいい

そうして育ってしまったのだ。
悩みの解決法も
相談の仕方も知らずに。

そんなもの普通ならば考えなくても分かることだが、彼女はその“普通”を与えられなかった。
こう言っては不謹慎だとは思うが、あまりにも本当の両親が亡くなったタイミングが悪かった。

彼女も彼女で、今の自分が“普通”だと思っていたので余計にだ。
皆もそう
皆同じ
だから私だけが弱音を吐くわけにはいかない。

そんな思いから、軽い悩みも彼女の中でどんどん深刻化していったのであろう。

最初は嘘だと思った。

その悩みも
生い立ちも。

なんせ彼女は組織と関係があると踏んでいる染井組の一人娘だと推測していたから。
彼女の名前も
現れた時期も
全てが偶然だというには出来すぎていて
自分の中ではこれが有力だと思っていたのだが……

彼女の様子を見るに、彼女が嘘を言っているとは思えなかったのだ。

苦しそうに言葉を紡ぐ彼女を見ると、こちらまで胸が痛くなってくる感覚があり
この感情を上手く言葉に言い表せず、ただただ彼女を少し強く抱きしめることしかできなかった。

つい彼女と、忘れられない恋人、宮野明美が脳裏に浮かび
“お前もか”
などと口走ってしまった。

しかしそれほど二人が重なって見えたのだ。

あの時
俺にもっと力があれば……

……でも今は違う

俺は何かを決心したように彼女をもう一度強く抱き直した。