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「りょうすけさんですか？」
「はい…」
「はじめまして。けいの母親の ゆうりです」
「！、けいちゃんのお母さんっ！？」
まさかの相手に ぶるり、身震いした俺。
頭と こころに刷り込まれた"けいちゃんのご両親への尊敬の念"は
俺の身体にも 刷り込まれていたようで、
ぺこぺこ、と 反射的に頭が下がってしまう。
「ごめんなさいね。あの子の父親が りょうすけさんに失礼なことしたみたいで…」
「いえっ、お父さんがいらっしゃるとは知らずに、俺が けいちゃんを抱きしめていたのが悪いんです！
……あの、ところで けいちゃんは？」
「…ごめんなさい」
謝罪の言葉とともに、ふるふる、横に振られた ゆうりさんの首。
「そう、ですか…」
「こうた、カンカンに怒っちゃって…。けいに りょうすけさんとは会うな、って。それから毎日、けいのこと見張ってるの…」
ふわりと揺れる 美しい毛並みや、丸みをおびた かわいらしい身体つきは、けいちゃんと まったく一緒で、
……けいちゃん。
俺は、思わず 泣きそうになった。
「本当に ごめんなさい」
「いえ。謝らないでください。けいちゃんのお父さんが怒るのも仕方ないです。自分の大事な子どもが ライオンと いっしょにいたら、そりゃ心配ですよね。
けいちゃん言ってました。『お父さんとお母さんに、ライオンを見つけたら 逃げなさい。って言われてるんだ』って」
頭の中によみがえる あの時の記憶。
「だから けいちゃん、初めて俺と会った時も『たすけてー』って逃げ出して。でも、その時俺が けいちゃんを襲ったり、追いかけたりしなかったから、けいちゃん 申し訳なく思ったみたいで…。しばらくして 俺に謝りに来てくれたんです」
今では 懐かしい思い出だけど、
あの時の けいちゃんの言葉も、表情も、俺の気持ちも、
なにひとつ色あせないまま こころに残っていて、
「俺、なんて こころのやさしい子なんだろうって…思っ、うぅぅ…」
あぁ、もう。涙が止まらない。
けいちゃん、
あいたいよ。
「りょうすけさん…」
「ごめ、なさ…」
ぐい、と乱暴に涙を拭うと
ふわり、
小さな手が 俺の手を やさしくつつみ、
「ありがとう。けいのことを愛してくれて。こうたのことは、私にまかせて」
そう告げた ゆうりさんは
けいちゃん そっくりの笑顔だった。
fin
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作者名：本田
| 作成日時：2019年10月13日 21時
