番外編 02 ページ40
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番外編.兄との別れ
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璃久(10歳)視点
「あーあ、俺、死んじゃうのか」
お兄ちゃんが白い天井を見上げて呟いた。全てを諦めているようなその表情が何だか辛くて、悔しくなり、強く唇を噛み締めた。
「お兄ちゃん…」
「ねぇ、璃久」
同情の含んだ声はお兄ちゃんの声で遮られた。
「これから、友達とたくさん遊んで。たくさん笑って、泣いて、喧嘩をして。でも、人には優しくして、素敵な恋をして…結婚して…子を産んで…親孝行をして」
「それから…」
そしてお兄ちゃんは辛そうな顔をした後
「俺のことは、忘れていいからな」
そう言って切なげに笑った。
その言葉の重さは、まだまだ子供の僕でもしっかりと分かるほど重かった。
「な…陽向、馬鹿じゃないの!?」
お姉ちゃんが声を荒らげた。眉間にシワが寄っていて、なんだか怖い。こんなお姉ちゃんを見たのは初めてだった。
「忘れられるわけないじゃん。だって、私たちは3人で"きょうだい"でしょ?だから、私も璃久も、絶対忘れないよ」
真剣な目をしたお姉ちゃん。その目には涙が浮かんでいた。僕も、その言葉に頷いた。
「…僕も…絶対忘れないよ。お兄ちゃんの分まで、たくさん生きるよ。親孝行だけじゃなくて、兄姉孝行もするから…!」
そういう僕の目にも涙が浮かんでいた。「男は涙を流すな」とお父さんに教えて貰っていたので、慌てて拭いとった。
「ふふっ、ありがとう。ふたりとも優しいね。…あのさ、俺、ふたりのきょうだいで良かったよ。本当に、よかった」
身体が小刻みに震える。目の前で命がひとつ失われようとしていた。「いなくならないで」、その言葉はいつも喉元で止まってしまう。お兄ちゃんに迷惑をかける訳にはいかないから。
「ねぇ、最後にぎゅーってして」
お兄ちゃんが小さな子供のように笑って、両手を広げた。『最後』その言葉に胸が押しつぶされそうになったけど、僕とお姉ちゃんは、飛びつくように抱きついた。
「…あったかい」
そういって、お兄ちゃんは強く抱き締め返してくれた。辛くて、苦しくて、だけど優しく、暖かくて、拭いとったはずの涙がぼろぼろと頬を伝って溢れる。
そしてお兄ちゃんは、幸せそうな笑顔のまま深い眠りについた。だんだん冷たくなっていく身体に「彼は死んだ」と実感させられる。
「…いなく…ならな…いで…お兄ちゃん…」
「璃久…うっ…ぐすっ…」
病室では、僕とお姉ちゃんの泣き声だけが寂しく鳴り響いていた。
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Rabbit book(プロフ) - 公務員さん» ありがとうございます!嬉しいです(*´-`*)更新頑張りますのでこれからも応援よろしくお願いします!! (2019年8月10日 18時) (レス) id: 5389d4eda8 (このIDを非表示/違反報告)
公務員 - あ、、、、続きが気になって仕方がない、、、、、!更新楽しみにしてます!! (2019年8月8日 12時) (レス) id: 567cb90382 (このIDを非表示/違反報告)
Rabbit book(プロフ) - 花風雪さん» ソフィは、、、、どうなってしまったのでしょうか……続きをお楽しみにしててください!笑 (2019年6月17日 16時) (レス) id: 5389d4eda8 (このIDを非表示/違反報告)
花風雪(プロフ) - (´・Д・)ぽかーん、ソフィィィィ! (2019年6月16日 19時) (レス) id: e781858e49 (このIDを非表示/違反報告)
Rabbit book(プロフ) - はるせさん» そうです、やばいんですよ!!(笑)更新頑張っていきますので応援よろしくお願いします! (2019年5月13日 19時) (レス) id: 5389d4eda8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ま る | 作成日時:2019年4月3日 14時