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「え、と……」
「ごめん、A」
そう言う夏油の顔を見て、ずっと前から苦しんでいたんだ、と気付く。
「でも、そっちの世界では心の底から笑えないんだ」
「それなら、ちゃんと教えてよ……傑」
「そうだね。Aが今みたいに呼んでくれてたら、そうしたかもしれない」
傑はそう言うと、私の頬から手を離した。
『今みたいに呼んでくれていたら』
その言葉が私の心の中に大きく反響して残った。
今みたいに、というのは下の名前で呼んで欲しかったということだろうか。
小学校の頃はずっと、傑、と呼んでいた。
でも高専で再会してからは下の名前で呼ぶのが恥ずかしくて、苗字で呼ぶようになっていた。
でも、そんなことなら、いくらでも下の名前で呼んだのに。
ああ、もっと早く夏油の苦しみに気付いていたら……いや、本当は気付いていた。
最近ちょっと痩せたことも、呪霊を取り込むことが苦痛になっていたことも。
ただ、それは私の気にしすぎだ、と目を逸らし続けてきた。
あの時、そのことに目を向けていたら、夏油は呪詛師にならずに済んだかもしれない。
そう考えて過去の自分を恨むが、もう、どうにもならなかった。
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作者名：穂波 | 作成日時：2021年11月20日 22時
