3の世界【後悔2】 ページ45
事故で死んでしまうなんて映画の中の出来事だと、夢子はそう思ってた。
夢子だけではない。恐らく大多数の人が思っている筈だ。
事件は自分と関係なく、何処かの津波もまるで映画か何か創作物の中の出来事のようで、可哀想だとかは思っても自分と結び付けて考える事は出来ない筈だ。
そもそも現実にあった事をモチーフに創作する事も多いというのに。
夢子の世界では、魔法が一般的な技能であった。
落盤等のそういった出来事は、その技能が使われているので滅多に起こらないと思われていた。
それでも不備や不幸な事故というものは無くなるわけではない。
事故が起こる確率が1%減ればいい方だ。
夢子の家族の場合は、不運にも土砂崩れでバリアーの役割を果たしていた機械が故障してしまった。これは希なケースである。
壊れにくいように頑丈に作られたそれは、技能無しと呼ばれていた人により丁度半壊していたのだ。
夢子の世界はAが居た魔法世界よりも更に魔法使い…技能持ちが優遇されている。そのせいで技能無しの人々は恨み僻みが強かった。
モンスターと呼べる異形の生物が居ないせいでその怒りは同じ人の、それも技能持ちでも弱い方へと向いた。
夢子の家の技能はとても弱く、多少魔法を使う前兆がわかったりと少し勘が良くなる程度だった。
それでも使いようによっては最悪を防げると、会社の人には重宝されていたようだが。
父方は技能持ちで母方は技能無しの家系であった為に、夢子自身は気にしていなかったのだが――技能持ちの大抵が技能無しを侮蔑している。
夢子は家族が亡くなった事により、それをより感じるようになった。
幸いにも父の親戚は母が能力無しでも気に入っていて、よく呼んでくれたりしていた。
母の親戚も最初はいい顔をしていなかったが、最後の方は和解していた。
(…暖かい)
Aの豊かなむねに顔を埋め、夢子はいろいろな事を思い浮かべた。
(風邪のせいで…)
夢子は最後、家族とろくに会話が出来なかった。風邪でうとうとしていたからだ。
(お帰りなさいって、言いたかったな)
母のご飯は優しくて美味しかった。
家事は1人分でも大変だった。
誰も居ない家は広く静かで、確かに此所に家族が居たという痕跡は妙に寂しさを呼び起こした。
無くして少しも立たない内からそれに気付いたのだ。
きっと更に家族の偉大さに気付く事になるのだろう。
遺影の中の家族は笑ったまま、もう動くこともない。
助けてくれる家族はもう居ない。
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作者名:ヴァーニャ | 作成日時:2017年3月10日 0時