3の世界【頑張る吸血紳士3】 ページ14
(まだついてきやがる)
背後から忍び寄るそれは黒く暗く不定形で薄っぺらくて目玉らしきものが沢山付いていて、イソギンチャクのような触手がにょろにょろと生えていた。
アーサーはけして後ろを見ることなく銃を用意し、後ろ手で放った。
パシュッ!
サイレンサーを付けた銃でそれを射つが、貫通した筈なのに何のダメージを受けていないようだ。
(いくら威力の弱い銃とはいえ、無傷か…物理的な攻撃が効かないだけなのか?)
試しに魔法で空中に小さな火を出現させ、近付けてみた。それは小さな火を大袈裟な程に避ける。
(…火が苦手なのか、光が嫌なのか。どっちだこれは)
アーサーは周りが丁度暗い所で出てきたソレを、光が苦手と仮定して船の外に出てみる。
ソイツは悔しそうに暗闇に佇み――消えた。
(光が苦手…いや、弱点なんだな。気を付けるべきは裏路地のような暗い場所と、夜道か)
そのまま外に出て海原を眺め、煙草に火を付ける。
波風にアーサーの癖っ毛がさらわれて靡き、それを鬱陶しく思った彼はヘアピンで適当に止めた。
(海を見ていると昔を思い出すな…)
荒れていた時代を、遠い過去を思い馳せる。
死んだ戦友。不味い飯。約束と裏切り。
ろくでもない事ばかりだが、人と深く関われてた時代はアーサーにとって大事な思い出であった。
少なくても今の時代のように妖精を道具のように使っていなかったのが大きい。
懐古趣味と言われても、思い出の詰まった物は捨てる事なんて出来ない。
アルフレッドに買い替えろと言われたジッポーも、アルフレッドが初給で買ってくれた大事な物である。アーサーは買ってくれた本人は忘れているけどと苦笑した。
実は贈った張本人も覚えているけれど、だからこそ恥ずかしくて買い替えろなどと口走った事は、アーサーは知らない事実である。
それにアーサーの貰ったジッポーは昔のアメリカ軍隊で流行っていたもので、多少へこんでるもののまだ使えるのだ。
アルフレッドにジッポーを贈られた時、アーサーは感慨無量の気持ちであった事を思い出す。
たまには静かに過去を思い馳せるのもいいなと、アーサーは目を細めた。
と、どったんばったんと大きな音を立てて誰かが弾丸のようにやって来た事で一気に騒がしくなった。
その騒がしさの原因は元気よく話しかけてくる。
「や、奴が!Gが出たんだぞ!今こそ君の出番だよ!食べてくれ!」
「く、喰えるか!」
「君ならいけるよ!」
「いけねぇよ!アメリカの馬鹿野郎!」
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作者名:ヴァーニャ | 作成日時:2017年3月10日 0時