国達と神様の御使い３ (ページ13)

今日:30 hit、昨日:1 hit、合計:25,080 hit

３の世界【頑張る吸血紳士２】ページ13

「…これは凄いな」

Aから頂いた血液は凄まじい魔力を秘めていた。それにやけに甘かった。

下半身にずんとクる、甘く濃厚な味だった。思わず噛み付きそうになるぐらいに。

アーサーは味を思い出して舌舐めずりする。と、相手はいつも相手するような簡単に切れる尻軽ではない事も思い出して自重した。

「チッ」

A達やアルフレッドの前では決して見せない紳士らしからぬ舌打ちをし、アーサーはアメリカが寄越した情報を流し読みしながら、空中から取り出した椅子にどかんと座った。

(PCゲームの中のように不安定な世界ねぇ…悪神は何がしたいのかさっぱりだな。

いや――別に何も考えていないのかもしれない。

人が悲しむとか、喜ぶとか、どうでも良いのだろう。自分が楽しけりゃ、な)

まるでNyarlathotepのような感じに。

そうアーサーが考えていると、スマホに軽く振動が走った。メールだ。

(…アドレスも件名も空白だな)

アドレスが空白になっている事を訝しみながらも、アーサーは中を確認。顔を顰めた。

【悪神は面白がって空想の生物を作っているかもしれません。一人動くのなら気を付けてください。

女神一同より】

(気を付けてくださいって…そんなのどうしろと言うんだ。というか女神一同？いったい何人が俺達を見ているんだ？)

疑問は尽きない。尽きないが、アーサーは顰めっ面のまま眼鏡を掛けた。

ヴァンパイアになって身体能力が向上したアーサーだが、どうにも見えすぎる目が嫌だった。

死者に怨恨に悪意にと、見たくないものまで見えてしまう。

ならせめて視界を狭めてしまえと、たまに集中したい時に度のきつい眼鏡をするのだ。

アーサーは中身が善良というわけではないが邪悪でもない為、縋るものを見てしまうと見捨てる度にちょっと嫌な気分になるのだ。

本来の使い方をかなり間違えて眼鏡を使用しているアーサーは、ぼやけた視界の波の道を淀みなく歩く。

ぐにゃぐにゃと曲がって見える地面の近くには、黒いなにかが潜んでいた。

アーサーは死者等を理由に眼鏡をしたが、本能で解っていたのだ。

見てはいけない(黒い泥々した)化物。そんなものが潜んでいると。

何故かそれはヒトから離れたヴァンパイアのアーサーに興味を持っていた。

どうやらAの側は奴には居心地が悪いらしく、Aが近くに居ると確実に居ない化物。

(女神の言う化物って…もしやこいつか？)

影のようなそれは肯定するかのように薄く揺れていた。