remind#3 ページ23
暗い廊下に足をつける。
そろそろ本格的に冬を迎えるため、空気はかなり冷え込んでいる。
リビングに入ると、眼鏡をかけた叶さんが、こちらに背を向けてiPadを眺めていた。
「叶さん」
「Aきてー」
「叶さんどうしたの？」
「これとこれ、どっちがいいと思う？」
叶さんが指をさした先にあるのは二つのマイク。
名前は違うが、見た目に大差はないのでどちらがよいかと聞かれても困る。
「わたし、馬鹿だからマイクの違いも分からないんですよ。それより、眼鏡かけてる叶さんレアだね」
「うん、こっちの方が安いけど僕が欲しいのは右のやつね」
「全然話かみ合ってないよ。叶さんわたしの話聞いてた？」
わたしを無視する叶さんを背後から揺さぶれば、急に真面目な顔をして振り返った。
「今なんて言えばてぇてくなると思う？」
「え？てぇてぇ？......分からないよ、もう」
「ていうか髪濡れたまま近づくな」
「ねえ乾かしてよ」
「ん、こっちおいで」
手招きをされて、ドライヤーのコードを挿してソファに座った叶さんの横に腰を下ろす。
改めて近づいてみると、叶さんは自分よりもずっと背が高い。
背中を向けると、叶さんはドライヤーのスイッチを入れて、髪をやさしく梳いた。
こんなことを言ったら多分燃えるんだろうけど、叶さんと一緒に住んだらわたしは毎日幸せだろうな。
多分わたしは叶さんが好きなんだ。
こんなことを言ったら一緒に配信もできなくなるから絶対に言わない。
伝える勇気もないし、配信仲間から急に告白されても多分引かれるだけだ。
「髪、乾いたよ」
「......」
「A？」
「あ、えっと、どうしたの？」
「いや......それより言いたいことがあって」
「な、なに？」
真剣そうな声色に思わず返事が上ずってしまった。
急にどうしたんだろう。
俯いているから叶さんの表情はよく見えない。
言いたいことって何？
焦らすのはやめてほしい。
「あのさ、明日のオフコラボ、てぇてぇ営業しない？」
「は？」
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作者名：芳野 | 作成日時：2022年3月31日 22時
