占ツク作者でシェアハウスしようとしたら能力貰った上に非日常が続きます【短編】 (ページ21)

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【夕暮れの紅猫】楽しげな声ページ21

暦代空李こと僕は、3階のベランダにある椅子に座って、読書をしていた。ベランダは外から見た印象よりも広く、意外なほど落ち着ける場所だ。

ページを進めようとした時、風に乗って下の階から音がした。音というか……話し声。随分と騒がしく、しかし楽しそうな雰囲気のする声たちだ。
2階のキッチンだろうか。気になって、椅子とともに柵の方へ寄る。

途切れ途切れに聞こえてくる会話から察するに、夜乙女さんを中心にドタバタ劇が繰り広げられているようだ。そう言えば、さっきも3階まで上がって、また下りていった足音があった。もしかしたら、下の階の騒動に関係しているのかも。

ここは、僕より年下の子ばかりだけど、僕より頼りがいのある子が多い。でも、こういう楽しげな騒ぎが聞こえると、やっぱり子供なんだなぁ、と思って微笑ましくなった。

僕も、なんだかその輪に加わりたくなったけど、うーん、僕はあまり顔を見せないから、僕の事知らない人が多そうだな……。
そう考えていると、カラン、と音がした。机の上に置いていたコップの中の氷が溶けた音だった。
「わわ、ほったらかしにしちゃってた……」
実は、氷、水、コップ、は水と氷の能力で、作り出した物。だから氷でできたコップなんかは、かなり水になっている。キッチンにコップを取りに行くのめんどくさがらなければ良かったかなぁ……と思いつつ、1度全てを水に戻し、
「そうだ」
と思いついて、水を操った。
「よし、できた」
昔、山で見た花を形作って凍らせる。そして、ベランダにある植木鉢にそっと差す。そこだけ、何も植えられてなかったのだ。もしかしたら、これから植える予定だったのかもしれないが、まぁ、この花があるのはひと時だけだ。

特に何もやってないのに、それだけで、何かやった気分になり、僕は部屋に戻る事にした。

このまま誰とも話さないつもりなのかなぁ、僕。と、そんな不安を残して。

実は、残していったのは不安だけじゃなく、読んでいた本もなのだけれど。その時の僕は、ベランダに本を置き忘れている事に気づかなかった。