善逸くんが女として見てくれない。【我妻善逸】

25 お言葉 ページ27

ゆっくりと動けばさほど痛くない。



寝台から徐に足を下ろし、床を踏む。



床に足がつく感覚がひどく懐かしい感じだ。



『早く、取り戻さなくちゃ』



そういえば日輪刀は何処だろう。



髪留めもない。



身につけている浅黄色の服だけだ。



ぎし、と軋む床を踏みしめながら歩く。



歩くとなると傷が痛んだ。



呻き声を上げそうになるのを噛み殺して歩く。



痛いのには慣れてる。大丈夫。大丈夫。



「おぉっと」



『あっ！』



足元ばかり見ていて前を見ていなかった。



ぶつかりそうになるところでだいぶ上にある目が合う。




そこにいたのは白髪の。




『音柱様…』



「よぉ。また会ったな」



聞けば蟲柱様に薬をもらいにきたらしい。



音柱様はゆっくりと私の身体の上から下を眺めた。



こんな傷だらけになっている私を見てどう思うだろうか？



「お前な」



『はい』



「柱候補、ってのはナシだ」



『……え…』




冷たい水を浴びせられたような感じがする。



目の前の色が消えた。



そして目の前の、一つも表情を変えない大男があまりにも恐ろしく感じた。



どうして、どうして…？



言葉が何も出てこない。




はくはくと死にかけの魚のように口が動くだけだ。



忘れていたように息を吸ってやっとの思いで口を開く。



『どうしてですか…？』



「お前の実力がどうこうじゃない。



自分の体調管理もできない奴は柱にはなれない」



全てを見透かしたような瞳に何も言えなくなる。



あまりにも図星過ぎた。



「お前は毎回敗因を考えてんのか？



今回の鬼はお前の実力で考えると倒せるレベルらしいじゃねえか。



最後に不意打ちを食らったってのも、日頃ちゃんと寝てないから注意力散漫になったんだろ」



そう言われればそうだった。



任務がうまくいかないとき、



悔しい気持ちが先走りして、それを鍛錬でごまかした。



敗因 なんてよりも練習量を優先した。




『…善処、します』



下唇を噛んで泣き出しそうになるのを堪える。



こうでもしないと嗚咽が漏れてしまいそうだ。



返事はせずに音柱様が通り過ぎる。



「おい」



振り返らなかった。



振り返れない。




「俺は期待してるからな」




そう言って何処かへ行ったけど、それが私の心を慰めることはなかった。

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