宮と逃亡 ページ11
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「………A?」
「え」
図書室で聴いた声がする。
「…橘?」
「何言ってんのさとみぃ〜、この子の苗字「宮」だよ?
ほんとにその子のこと好きだねぇ」
「あ、…そう」
残念イケメンに対して、友達がこう言ってくれたおかげで焦りが少しなくなった。
でもなんだか、ここにいるのが後ろめたくなってくる。
「ごめん私ちょっと急ぐから!!」
それだけ言い残して走り出した。
廊下を走らない、なんて無視して全力疾走である。
なんて、急に足が速くなるわけではないのだが、それでも足を動かして女子更衣室に飛び込んだ。
「(何でいま…っ!)」
やはり私は運が悪いのだろうか。
部活を見に行ったのがもう既に間違いだったのだろう。
そうしたら会わなくてすんだかもしれないのに…!!
すぐに着替えて更衣室を出る。
廊下を通っていると男子更衣室からどっと笑い声がして、それももうびっくりである。
「…しんどい」
小さくそう口にした。
今日一日、濃すぎる。
もう少し、バレないで粘りたいところなのだが。
無理だったら明日はもう、残念イケメンの前で「宮 A」としていられなくなる。
それはつまり、普通の学校生活が終わる合図ということだ。
それだけは本当に、切実にやめてほしい。
嫌いなわけではないのだけれど、せめて私のことも考えてくれ、ということである。
例えば私が運動音痴だと言ったり、苗字を言ったり。
それも一応私の個人情報なのだが。
というか私の苦手なこと晒さないでくれ。
かといって今、面と向かってそう言えるはずもないのだが。
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「お帰り姉さん」
「あ…ただいま…」
考え事をしながら歩いていると、すぐに家についてしまった。
「遅かったね」
「そう…部活見学しててね」
「えっ、姉さん運動できないよね」
「確かにそうだけど酷いね」
伶は私に対して結構酷い気がするのだが。
「さとみさんバスケやってるんだっけ」
「そうなんだけど…」
「姉さんさとみさんと正反対だけど」
靴を脱ぎ、リビングへ行きながらそんな会話をする。
「でもさとみさん、姉さんのそういうとこが好きなんでしょ」
突然のその言葉に思わずぽかん、としてしまう私。
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るり(プロフ) - 今日ほんとに見返してたところの更新だったので嬉しかったです泣 この先のお話とかめちゃくちゃ妄想してるので、いつかお話になるの楽しみにしながらこれからも見返そうと思います! (2021年1月14日 0時) (レス) id: 1011553aa4 (このIDを非表示/違反報告)
月雫 runa - 完結おめでとうございます!! 最初から最後まで楽しめました! (2020年3月22日 12時) (レス) id: 7dc9d510f6 (このIDを非表示/違反報告)
おとは(プロフ) - はじめまして!スゴくよかったです(*^_^*) (2020年3月18日 7時) (レス) id: 083a813a8f (このIDを非表示/違反報告)
さくり@歌リス(プロフ) - ヤバい!最高でした(@_@) (2020年3月16日 22時) (レス) id: 0cd51e6ec6 (このIDを非表示/違反報告)
響(おと) - すき。 (2020年3月16日 11時) (レス) id: e976740a08 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:田鈴 | 作成日時:2020年1月2日 17時