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泣いていた
Aが目を潤ませているのを泉田は見逃さなかった
曲がり角でぶつかった相手がAだったときは
泉田は驚きで心臓が締め付けられた
声をかける暇もなく、Aは走り去ってしまった
泉田はしばらくAが走っていった方向を見つめ
廊下に立ち尽くしていた
すると後方から女子の賑やかな声が聞こえてきた
泉田は思わず振り返る
「本当大人しくなったよね」
「あれくらいが丁度いいでしょ」
「でも、黒田くんなんで仲良くするんだろうねー」
「わかる。やっぱ可愛い子が好きなんでしょ？」
「はーまじムカつくわー私も佐々木になれたらなー」
その声の主はAと同じクラスの女子達だった
‘黒田’ ‘佐々木’ その単語に泉田は直ぐにこの女子達は
Aのことを話しているのだとわかった
泉田はその場に立ったまま、その女子達を見つめていた
「まぁ、佐々木が…ってちょっと…」
女子達が泉田に気づき、気まずそうに声のボリュームを下げた
泉田は女子達の反応をみて確信した
‘やっぱりか’ と
女子達がどんどん泉田と距離をつめてくる
進行方向が泉田のいる場所なのだから当たり前だ
10メートル
5メートル
女子達は目線を下にむけ、向かってくる
泉田はこの時、葛藤していた
声をかけて、Aのことを聞くか
このまま通り過ぎるのを待つか
Aのことを拒んだのは自分だ
自分を苦しませてきたのは彼女だ
だからAがどうなっていいと思っていた
しかし、悲しそうな表情をみてしまった
ずっと傍にいて
自分を守ってくれていたAが苦しそうにしていた
泉田はぐっと制服のズボンを握りしめた
そして喉を上下に動かし
口を開いた
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作者名：ちょす。 | 作成日時：2019年11月16日 1時
