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家に戻ると、私と椿はすぐに、大旦那様を探した。
すると、椿のお父様である樹さんの遺影の前で、
椿の作った落し文を手にしている姿を見つけて、
その様子を廊下から静かに見守る。
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宗寿郎「…お前は認めていたのか。」
「…!」
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ポツリ、そうつぶやいた声に、
見ていたことがバレたのかと思ってドキッとしたが、
すぐに、その言葉は、
私ではなく樹さんに向けられたものだと気づいた。
私は声を出さないように気をつけながら、
引き続きその様子を見つめる。
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スっ、と菓子楊枝で落し文を一口大に切り、
少し震える手付きでそれを口元に運んだ。
噛みしめるように目を閉じ、じっくりと味わっている。
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……ああ、本当に食べている。
椿を、孫とも、この家の跡取りとも認めなかったあの人が、
この15年、椿が何を作っても突っぱねてきたあの人が、
椿の作ったお菓子を、食べている。
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そのことが、自分のことかのように嬉しくて、泣きそうになる。
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宗寿郎「……まだまだだな。」
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そう呟いた彼の声は、
こころなしか、いつもより暖かく、優しいものに聞こえた。
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「…つば、…!」
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この感動を早く椿と分かち合いたくて、
すぐ後ろにいるはずの彼の方へ振り返ると、
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…そこには、キレイな一筋の涙を流す彼がいた。
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泣いているところなんて久しぶりに見るから、
少し動揺してしまった。
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でも、
15年、孤独にお菓子を作り続けてきた彼にとって、
それくらい、これは大きなことだったのだろう。
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彼は涙を拭い、ひとりで部屋に戻る彼の背中を見ながら、
私はそんなことを思っていた。
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紙兎(プロフ) - みかさん» お久しぶりです!ありがとうございます! (2020年11月4日 0時) (レス) id: 4f2a78c08e (このIDを非表示/違反報告)
みか - 久しぶりです。めっちゃ楽しい作品になってますね。 (2020年10月31日 11時) (レス) id: de0ef4c44d (このIDを非表示/違反報告)
紙兎(プロフ) - ぱぴこさん» ぱぴこさん初めまして!とっても嬉しい感想をくださってありがとうございます!面白いと言って頂けると書いていて良かったと思えます!移行してもよろしくお願いいたします´`* (2020年10月31日 11時) (レス) id: 4f2a78c08e (このIDを非表示/違反報告)
ぱぴこ - 紙兎さん、はじめまして!いつも見てます!本当に本当にこの作品が大好きで更新を日々待ちわびております笑 紙兎さんみたいな上手で面白い作品が作れるよう頑張っていきます!移行おめでとうございます!これからも応援してます! (2020年10月29日 23時) (レス) id: f7a6ef29b4 (このIDを非表示/違反報告)
紙兎(プロフ) - カリリンさん» そう言っていただけて嬉しいです!更新頑張ります(^^) (2020年10月27日 23時) (レス) id: 4f2a78c08e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:紙兎 | 作成日時:2020年9月24日 23時