第捌幕 彼女の思い ページ9
瑠奈side
白恋中の校舎に入った途端、雷門の人達は白恋の生徒に囲まれた。もう、一瞬で。そう言えば、日本一になった、と言っていた。
知名度があると、探し物しやすそうだな。多分皆簡単に信じて、協力してくれるだろうし。人だったら、目立つから向こうから寄ってきてくれるのかも。そう考えると、有名って得だ。
「私達、吹雪士郎って人探してるんだけど。彼、今此処に居る？」
「吹雪君？今頃───」
スキーにスケートにボブスレー。あれをやっている、これをやっている、と、白恋中の生徒達が口々に予想を告げる。事前に聞いていた通り、様々なウィンタースポーツに長けているそうだ。
カタン、と玄関の辺りで雪を払う音が聞こえた。直ぐ様小さな少女が音の方に駆けていった。
「吹雪君！何処行ってたの？お客さんが来てるんだよ！」
「お客さん？」
現れたのは、先程キャラバンを降りた少年。こいつが、吹雪士郎。
「吹雪士郎君、ね？ 少し時間いいかしら」
「ええと……」
「私は吉良瞳子。イナズマキャラバンの監督よ」
加入の話だろうか。強いなら、引き入れたいだろうし。というかそのためにここに来たんだし。でも、少しも話さず言われても困るだろうな。
少し考え事に熱中しすぎたのか、顔を上げると周りには殆ど誰も居なくなっていた。
「お！ なあ篠宮、外行こうぜ！」
笑顔を浮かべた円堂に手を引かれ、校舎から出る。皆は先に校庭に向かっているそうだ。その途中に、長い長い階段があった。
「ねえ、急すぎない？」
「ん？ そうか？」
「よくそんな、駆け下りていけるね……」
「だって早く行かなきゃ追いつけないだろ？」
「それは、そうだけど……雪で足が滑るかもしれないし、危ないだろう」
どんなに注意しても、なる時はなるんだから。こんな高さなら落ちたらたまったもんじゃない。
「じゃあ……ほら、手繋いでてやるから」
「は？」
「嫌か？ だったら、俺が先に降りて、落ちたら受け止めてるのは？」
「いや、キミも一緒に落ちるかもしれないでしょ。そもそも、落ちても自分でなんとかするから！」
降りる度に、カンカンカン、と高い音がする。下駄でもなんでもなくて、ただのすにーかーなんだけど。
「そんなに気を使わなくていいよ」
「あ、ああ……」
ずるり。油断した。凍った所に足をつけた瞬間、体重のまま滑り、体が傾く。
「Aっ！」
ああ、ほら、やっぱり。
「私の事なんて、見てないくせに」
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作者名：海道 凛 | 作成日時：2018年11月3日 19時
