world５６ それは数少ない我儘 ページ10
柚葉side
翌日の朝。瑠奈さんは久しぶりによく眠れた、と笑っていた。
何処がだ。夜中呻き声を上げて何度も起きて居たのに。それをよく眠れたとはなんぞ。
「さて、瑠奈さん。安眠とはなんぞ？」
「え？⋯⋯そっかあ、ユズの部屋隣だったかあ⋯⋯抜かった」
「おはようございます、でもベッドに逆戻りですね」
にっこりと笑顔を作って瑠奈さんを引き摺る。あー、やっぱり軽い。適正体重から大幅にズレている。
まずもっと太って欲しいのに、瑠奈さんは平気で寝食を抜いてしまう。最近はあ〜ちゃんと何やらやっているようで、私には教えてくれない何かが起きている。
部屋に入ると、足の踏み場もないくらいに散らばった資料の山が目に入る。オリオン財団がうんたら、新しく発見された遺跡がどうたら。
思わずぽかんとしてしまい、瑠奈さんを見る。疚しいことがあるかのように目を逸らされたが、取り敢えず無事なベッドに瑠奈さんを放り投げる。中一女子の腕力で投げられる中三女子は可笑しいので、やっぱり瑠奈さんは軽すぎる。
「君達がボクを守りたいと思ってくれるように、ボクも君達を守りたいと思っているんだよ。これが上手く行けば、君達は何も恐れることなく生活できるからね」
やっぱり、
「私も、もうそこまで幼い子供な訳ではないんですけどね」
「⋯⋯ごめんね、子供扱いしている訳ではなくて、ただ本当に、これは一歩間違えたら皆で地獄の底に落ちていくような取引だから。ボクの意地なんだよ、分かってくれる？」
「失敗しない、と言いたいところですけど、あ〜ちゃんや瑠奈さんを巻き込んでしまうと思うと、何も言えなくなるんですよ。ずるいです」
瑠奈さんは困ったように笑って、頭を撫でてくれた。ただ単に私達を危険な目に遭わせたくない一心で動いているらしいけれど、でも私達の為に瑠奈さんが傷付いては意味が無い。
「⋯⋯本当にダメな時は、誰かを頼ってくださいね。私でも、あ〜ちゃんでも、照美さんでも、本当に誰でもいいので」
「ありがとう。これからまた眠るから、傍に居て、くれるかな」
「⋯⋯そんなことでいいんですか？ おやすみなさい、瑠奈さん。いい夢を」
ゆっくりと布団を叩けば、瑠奈さんは早々に寝息を立て始めた。
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作者名：海道 凛 | 作成日時：2020年2月3日 21時
