world７６ 頼って欲しい ページ40
瑠奈side
「これ、なに」
朝。人がまだ沢山いる食堂で渡されたのは、先日書いた書類を渡された。
「これ、今日話そうと思ってたんだ」
「監督のサイン入ってるけど」
「うん、この間監督と相談して決めたんだ。円堂も一緒に居たよ」
あげはは唇を噛んでいて、今にも泣き出してしまいそうだった。つらそうだな、痛そうだな、とどこか他人事のように考えてしまって、本当に嫌になる。
離脱届け。オリオン財団に反発し、壊そうとしている今。戦力が減るのは望ましくない。とてもとても望ましくない。だから皆、そういうことにはちょっと敏感になってるんだろう。ボクの周りにはすぐに人が集まってきた。
「なんで、言ってくれなかったんだ」
「スペイン戦が終わって、皆疲れてたでしょ？」
「……仲間の一大事に割く時間くらいあった」
「それで試合に負けたら意味ないでしょ。少しでも集中力を欠いたら、スペイン代表相手に同点なんて無理だった。邪念になりうるものは、限界まで排他するべきだよ」
皆が皆反対を口にする。それに一つ一つ返しながら、目の前のあげはを見据える。怒っているんだろう、目が据わっている。
「いつもそうだ。なんで大事なことばっかり話さないで、一人で抱え込んじゃうんだよ。……俺達だって、一緒に背負えるよ」
「……お前のことは、誰も迷惑だなんて思ってない。言い方悪いかもしれないけど、何も言わずに勝手に居なくなられる方が迷惑だ」
あげはも、皆も、信じられないって顔でこっちを見ている。その中で円堂だけは、寂しそうな、悲しさを押し殺したような顔をして、ただ一言。
「もっと、頼ってくれ」
その言葉に、全部込められているような気がした。心配も、動揺も、困惑も、怒りも、悲しみも、全部。
「……ごめんね」
ぽつ、と一言。それだけで限界だった。皆の真っ直ぐな視線に、耐えきれなくなってうつむく。びっくりしたけど、嬉しかった。
ちゃんと心配してくれて、一緒に背負うよ、って手を取ってくれる仲間がいる。まだ素直にその手を取ることはできないから、今は気持ちだけ受け取っておこう。
「……まだ、ちゃんと話す勇気はないけど、でもちゃんといつか話すから。その時まで、待っててほしい」
「そんなの……嫌だ、なんて言うやつ、居ないだろ！」
もうちょっと、一緒にいたい。それが叶って嬉しいから、やっぱりボクは笑ってた。
「これからはマネージャーとして、よろしくね」
その一言に、皆はほっと息をついた。
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作者名：海道 凛 | 作成日時：2020年2月3日 21時
