番外編 短く長い白昼夢�� ページ30
瑠奈side
目が覚めたら、知らない場所にいた。
「何回目だ……もう飽きたよこの状況」
一回目は知らない道に座り込んでいた。2回目は、森の中。そして、三回目は知らない個室だった。
「屋内ってことを喜んだほうがいいのかなー……」
壁掛け時計を見る限り、時刻は午前四時。優に付き合って合わせ鏡をしたら、優が気持ち悪い光に巻き込まれかけていた。そしてそれを突き飛ばした代わりに、自分が巻き込まれた。今に至る。なんでだ。
別世界と交信するのに失敗したら、どうして自分が移動してしまうのか。まあ、大方その別世界にやってきてしまったんだろうけど。
「なにこれ、“オリオン財団”？ それにこれ、イナズマジャパンの脱退届の控え……マネージャーの加入申請書……」
部屋の両端にはベッドが置かれていて、その間に机が二つ置かれていた。部屋の半分は誰も使っていないようで、人の形跡がない。シーツや布団からは、ただ柔軟剤の香りがするだけだ。
部屋のこちら半分には、大きなトランクケースと車椅子。机にはさっきの書類がある。車椅子を使っていたなら、膝でも壊してしまったんだろうか。署名されているのは、紛れもなくボクの字で、篠宮瑠奈と書かれている。監督の欄には趙金雲という名前が。
「久遠監督じゃないんだ……」
どうやらボクは、別世界のボク自身と入れ替わったか何かしたようだ。それも、なんだか物騒な世界の。
強制的に筋肉を活性化させるサポーターがどうたら、靴に仕込まれた刃物がどうたら、レーザーミラーがどうたら。ここの自分は、随分と危ない橋を渡っているようだ。というか明らかに後半サッカーでやる必要ないよねどうしてそうなった。レーザーミラーって何。怖いよサッカー。
「あ、これ……」
入院したときに使い始めた日記帳に似ている。荷物を漁って申し訳ないとは思うけど、状況把握のためだから許してほしい。心のなかで謝りながら、ページを捲った。
中身は、去年のFF辺りまでは写したように同じだった。その後は、海外に行ったことをはじめ、全く違う道筋を辿っていた。
「んー……此処のボクは、ちゃんと向こうに居るのかな？」
ちょっと不安になってきた。日記帳から察するに、此処のボクはボクより一つ年上だ。つまり、円堂やヒロト達も一つ年上。そっくりそのまま、ということはないだろうけど、少し未来の彼らを見るのは怖い。十年後見ておいて何を今更って感じだけど。
やっぱり、知らない彼らを見るのは怖いな。
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作者名：海道 凛 | 作成日時：2020年2月3日 21時
