world７５ 静かな夜に ページ29
瑠奈side
「では、先に篠宮さんを代表選手から外しましょう。書類はありますね？」
ざっと紙面に目を滑らせてから、監督はウンウンとうなずきながら判を押した。これでボクはもう選手じゃなくなった。
「次に、マネージャーとして入ってもらいます。同意書類は書けますか？」
「えっ……あ、どうでしょう……」
「試してみましょうか。できなければ後日で構いません」
机の上にペンを置いてもらって、試しに掴んで見る。手に色は戻っているから、大丈夫だと思うけど。
感触はまだ戻っていないようで、握った感覚はしなかった。ただ、見ている分には問題なさそうで、多少ブレたけど名前くらいならちゃんと書けた。
「はい、これで構いません。では、これからはくれぐれも『無理のない範囲で』お手伝いをお願いしますね」
「ハイ……」
いつもニコニコしてる分、目を思いっきり見開いて言われると圧が凄かった。ぷらぷらと足を揺らすと、まだ透けていて感覚もなかった。
「……戻らなかったらどうしよう」
「そうなったら最後まで車椅子押してやるからな」
暗い顔をしていたのか、冗談めかして円堂が笑う。それはそれで申し訳ないけど、手足が透けたらどうしようもできない。だから、できるだけ元気に見えるように、笑った。
「……その時は、よろしくね」
監督にお礼を言ってから部屋を出る。キイキイと車椅子が鳴る音と、円堂の靴音が、広い廊下に響いた。
「なあ」
「何？」
「……脱退のこと、さ。誰かに相談したか？」
イナズマジャパン脱退のこと。前々から考えてきたが、話せばどうせ止められて決意が鈍ってしまう、と誰にも話さないでいた。
勿論、ユズやあげはは知らないし、他のメンバーなんて以ての外だ。それほど交流もないのに話したら、困らせてしまうだけだから。
日本でメンバーを探している鬼道にも、選ばれるようにと頑張っている照美にも、何も話していない。
ああでも、一緒にコートに立ちたかったな。なんだかんだ言って、照美とは同じチームで戦ったことがない。折角の機会だったのに。
豪炎寺とは去年のFF決勝以来同じコードに立ってさえいないし、鬼道は今年のFF本戦での王帝月ノ宮対星章学園の試合以来。
「相談してないよ。困らせちゃうだけだと思ったし、そもそも何も話さないで行くつもりだったから」
「そうか。……今度何か決めるときは、俺達にも教えてくれよな」
「……そうするよ」
部屋まで送ってもらって、おやすみなさい、と別れた。
番外編 短く長い白昼夢�、�←world７４ 不要にならない“かみさま”
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作者名：海道 凛 | 作成日時：2020年2月3日 21時
