world７２ 離脱希望者 ページ26
円堂side
クラリオ達と戦った日の夜。興奮で目が冴えてしまって、何か飲みに行こうと部屋を出た。
食堂に行く途中、どこかぼんやりとした瑠奈を見つけた。向かっているのは自分の部屋がある方向じゃなくて、なんだか様子が変だった。
「どうしたんだろう……」
沙織の話を伝えたときみたいな、焦ったような、諦めたような顔。どうも嫌な予感がする。よく見ていると、所々体が透けた状態だ。
「いっだぁ！」
「瑠奈！だいじょ……ぶ、か？」
「あ……えん、ど……？ ぁれ、なんで……？」
「偶然見かけたから、着いてきたんだ。何処行くんだ？ 歩くのしんどいだろ？ おぶっていくから」
「……かんとくの、部屋。……暫く歩けないや、ごめんね」
瑠奈は派手に転んでしまって、そう言われて足元を見れば、両方のふとももから下が透けていた。ふくらはぎの半ばから先なんて、ほとんど見えない。
これはだめだ。こんな状態で、サッカーなんてやらせちゃいけない。どうしよう、車椅子とかが必要だろう。施設で借りられるか。
「……とりあえず、監督の部屋行くか。話してる間に、俺車椅子取ってくるからな」
「ん……ごめんね」
「こういうときは、ありがとう、でいいんだぞ」
おぶると首が締まりそうだったから、子供を抱き上げるような要領で抱きかかえる。
去年悪戯で抱き上げたときより僅かに軽くなっていたが、足の重さは入ってないだろうから、ちゃんと成長しているんだろうな、と嬉しくなった。
「……ありがとう」
「どういたしまして！ あ、声大きいとみんな起きちゃうかな……」
「どうだろう。ボクはこれくらいじゃ起きないと思うよ。……ありがとう、円堂」
小さな小さな声で、ポツリと言われた感謝の言葉。驚いて顔を見ると、顔も耳も真っ赤にしてそっぽを向いていた。
「……っと、着いたな」
「うん。失礼します、監督」
「はい、どうぞぉ〜」
瑠奈を近くの椅子に座らせてから、一礼して部屋を出た。二人は何を話すんだろう。瑠奈は、何を監督に伝えたかったんだろう。
「お、あったあった」
宿舎の入口の方に、車椅子がまとめて置かれていた。二人の話が気になって、自然と歩くペースが早くなる。
部屋からは監督の笑い声と、瑠奈の怒ったような声が聞こえていた。まだ話している。
「ですから……茶化さないでください監督」
「おっと、すみませんねぇ」
「ボクを、代表から外してください」
ヒュ、と音がして、息が詰まった。
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作者名：海道 凛 | 作成日時：2020年2月3日 21時
