帰宅したら家に反社がおりまして。【三途春千夜】

00　prologue ページ1

仕事も無事に定時で終えて、るんるん気分で帰宅していた。……さっきまでは。

玄関前に来てみれば、扉の向こうから何やら怒号が鳴り響いている。聞き覚えのある春くんのギャンギャンと吠えるような声。誰かが家に来ているのだろう。

まさか……女の人じゃないよね？なんて不安になりながらもドアノブに手をかけると、扉に鍵はかかっていない。

ドクンドクン、と煩くなっていく鼓動。愛の住処……という訳ではないけれど、大好きな人と住んでいる場所であまり騒ぎを起こしてほしくないし、女の人だとしたら正直上がりこんで欲しくない。

しかも、こんな外まで聞こえる声で喧嘩をしているだなんて、近所迷惑もいいトコだ。一応、防音対策もされているマンションのはずなのに、それでも外まで聞こえるってどれだけ部屋の中で大きな声を出しているのだろう。

……春くんが鍵をかけ忘れるなんて、らしくない。余程、余裕がなかったのだろうか。

鍵のかかっていない扉に手を伸ばし、ドアノブに力をかけて捻る。ゆっくりと開くと、見慣れない男性靴が2足ある。

女性の靴がないのを確認すると安堵しながらも、お客様を連れてきているならば連絡の1つくらいしてほしかったのに。

そうすれば、ちょっとした茶菓子を買ってから帰ってきたのに。春くんのそういうトコちょっと良くないと思う。

なんて事はどうでも良くて。部屋の奥が騒がしいため、靴を脱いで足を進めていく。奥へと進む度に声は自然と良く聞こえてくる。

「ただいま。春くん、外まで声が丸聞こえだったよ。ちょっとは声のボリューム考えてよ。お客様相手に怒鳴るなんて……って、灰谷さん！？」

「あ、Aちゃんじゃん♡お邪魔してます♡♡相変わらず美人だね。目の保養だわ。」

どうやら、来ていたお客様は灰谷さん達だったようだ。先程まで体たらくだった灰谷のお兄さんの方がすくっと立ち上がり、私の手をギュッと握りしめる。

「コイツ辞めて、俺と付き合おうよ♡俺の方が朝も夜も優しいよ？♡」

あ、春くん軽くピキッてる。何か言って灰谷さんの言葉を遮らないと、また春くんが暴れだしちゃうかもしれない。

「冗談はやめてください。……それで、今日はどうされたんですか？」

「A、聞くんじゃねえ。」

「え？」

灰谷の弟さんも立ち上がり、捨てられた犬のようなきゅるっとした瞳で見つめ始める。嫌な予感しか、しない。

「暫く泊めて欲しいんだけど♡」

「は、はい……？」

花に嵐、とはまさにこの事かも。

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