帰宅したら家が燃えておりまして。【三途春千夜】

05　拒否権はないです ページ6

とりあえず、警察に真っ先に向かい昨日の火災の詳細を形上だけでも聞くことにした。放火の可能性が高い、そして犯人は不明、と警察が伝えてくれる。……私は既に犯人が誰なのか知っているけれど。お巡りさん、コイツです。と突き出してやりたいのが本音だ。

「Aさんは留守にされていたようですが……」

「お恥ずかしい話なのですが、昨夜は仕事終わりに彼の家に……。」

目を伏せたまま、気まずそうにそう言ってみると相手も気まずそうにしながらも「そうだったんですね」と詳しい事は聞かれなかった。

被害届だけ出す形にして済ませ、警察署を後にした。……三途さんが犯人だと言って突き出したら、釈放された後に仕返しされそうで怖いので黙秘という事で。

「俺の言った通りにしたよなァ？」

「言われた通りに言いました。」

「バカ女にしては上出来じゃねぇか。」

口角を片方だけ釣り上げてニッと強気な笑みを私に向けた。あまりの顔の良さに思わずグッと来てしまう。本当にこの人、反社の界隈にいなければ良かったのになぁ。勿体ない。

「何、ジロジロ見てんだよ。スクラップしてやろうか！？」

「スクラップ……？切り抜きするの？」

「てめぇを死体(ｽｸﾗｯﾌﾟ)にしてやろうかって聞いてんだよ！」

あー……やっぱこの人怖いわ。ちょっと数秒見つめてただけなのにそこまで言わなくてもいいじゃない。本当に血も涙もない人。自分のミスで出してしまった被害者を少しでも労わる気持ちは微塵もないようだ。

「勘弁してください。……という訳で、私これから銀行の通帳の再発行とクレカの再発行の手続きに行くのでここで大丈夫です。」

「……は？何言ってんだお前。俺も着いていくに決まってんだろ？お前を野放しにしたら何するかわかんねぇだろ？」

「何もしませんけど。」

私が三途さんの事を警察に密告しないか疑っている様子だ。三途さん視点ではそれも無理はないのかもしれないけれど私はそんな事しない。昨日今日出会った人間を信じろというのも無理があるか……これは私が折れた方が早い気がしてきた。

というか、いちいち考えるのも面倒になって放棄したいだけだけど。

それに……三途さんの事は怖いという事と絢爛な容姿を持っているという事以外は何も知らない。逆もまた然りだけど。

長い睫毛を揺らす大きな瞳には目力がやたらあって、ギロッと睨まれるだけで背筋が凍り付いた。

「……じゃあ一緒に来てください。」

結局、私が折れるしかなかった。

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