帰宅したら家が燃えておりまして。【三途春千夜】

46　神様、どうして。 ページ47

高級マンションで暮らし始めてからはや1週間が過ぎ、住み心地がよくて感動してしまいそうになる。でも、私1人では広すぎるこの部屋。ただ、寂しい思いを募らせてしまうだけだった。

……隣に春くんがいないなら、何処へ行ったってもう同じか。

荷物も最低限の物以外持ってきてなかったから、まだ春くんの家に私の物が幾つか残っている。取りに行きたいけれど……会ってしまったら今度こそ泣きながら彼に想いを伝えてしまいそうで。

未練がましい女だと思われたくなくて、置き去りにしてしまった物は買いなおす事にした。未だに心にぽっかりと開いた大きな穴を防ぐ代替品は見つかりそうにもなくて、何もかも手付かずだった。

「あっ……。」

ソファに置いていた鞄が床に落ちてしまう。その際に鞄の口が大きく開いていたせいで、鞄の中身も飛び散ってしまっている。

財布やら何やらを拾いながら鞄の中にしまっていると、見つけてしまう春くんの家の合鍵。

どうして、神様は……私にもう1度彼に会えるチャンスを与えてしまうのだろう。

会ったところで、もう前のように笑いあう事は出来ないのに。私の彼への想いが深淵に落ちていくだけなのに。でも、私は……。

鍵を握りしめ、春くんにこの鍵を返しに行こう。そして私の想いを伝えよう。

そう決意してから私の身体は理性なんてものをぶち壊して無我夢中で走った。タクシーを使った方が絶対に早いのに、駅まで全力で走っていた。

春くんのマンションに着くと、入る事を今更ながら、躊躇った。迷惑な事をしているって自覚は勿論あるからだ。

でも、此処まで来たのだから引き返さない。合鍵で鍵を開け、扉を開けると春くんの靴が雑に脱がれている。

「三途さん。」

大きな声で玄関先から呼んでみるが、返事はない。私は、もう一度呼んでみる。……とフラッとおぼつかない足で玄関まで歩いてくる彼の姿。

元々痩せていた体が更に痩せていたように見える。目の下のクマも酷ければ、赤く腫れぼったい瞼。

「……A？な訳ねえか。薬キメすぎて幻覚と幻聴やばすぎてウケるわ。」

「私、ここにいるよ。」

「何で……いんの？」

大きく目を見開き、私の姿をしっかりと捕らえている彼の視線。

「三途さんの合鍵預かったままだから返しに来たの。それと……私の話、聞いてくれる？」

崩れ落ちた塔はもう戻らなかったとしても。燃え尽きた灰を集めても何も起きないかもしれないけど。……それでもいいから、私の想いを聞いてほしいの。

47　綱渡りの堕ちた先に→←45　こんなはずじゃなかった

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す