34 泣いてるトコなんて、 ページ35
定時になり、帰る支度をしている私を相原さんが呼び止めてくる。
「東雲さん、ちょっと……。」
「ごめんなさい、今日は少し用事があって、また明日にしてもらってもいいかな?」
彼の隣を横切って、早足で駅に向かう。誰とも話す気分になれなくて、一刻も早く殻に閉じこもれる居場所が欲しかった。
人前で、涙は流したくない。ずっとそうやって生きてきた。
だから涙を流すときは誰もいない場所がいい。弱さを見せる事に慣れてなくて、誰かに弱さを曝け出すのが怖いんだ。
春さん宅に着くと、春さんの靴が玄関にあった。今日の帰りは……遅い方が良かったな、なんて思いながら靴を脱いだ。その時には、既に涙が零れ落ちていて、溢れて止まらなかった。
春さんがいたらリビングでこのまま泣くことも出来ない。鞄を玄関に置き、リビングに向かわずにそのまま浴室へ逃げるように入っていった。
三途side
扉の開く音が聞こえて、Aが帰って来たのだとすぐにわかった。……でも、リビングにはいつまでも来ないから玄関へ様子を見に行くと、会社の鞄が放置されたままだった。
床に滴っている雫を見つけると、浴室の扉が微かに開いており、隙間から電気の光が零れていた。
リビングに来ないで風呂に入る事なんて今までなかったから、妙な違和感を覚える。……もしかして、と思って扉を開ける。
「……春さん、何で入ってくるの?」
いつもみたいなギャーギャー騒ぐような反応がなく、少しばかり目が赤いような気がした。
「お前、泣いてんの……?」
「泣いてなんかっ……。」
浴室に入り、シャワーの蛇口を捻って止める。ボロボロと目から涙が零れてくるのを確認すると、Aは弱々しい声で俺に訴える。
「泣いてるトコなんて見ないで……。」
その言葉が助けてほしい、と言っているように聞こえた。
「なんで泣いてんだよ。」
「……もう、疲れた。」
限界を迎えているAをどうすればいいのかわからなくて、抱きしめる事しか出来なかった。すると、Aは縋るように抱きしめ返した後、子供みたいに声をあげて大泣きし始める。
余程の事がない限り、こんな事にはならないはずだ。
一旦、浴室から2人で出て、リビングに向かわせた。Aが落ち着いたタイミングで話を聞くと、気が滅入る内容ではあった。
クソみてぇな奴にはコイツを絶対抱かせたくない。弱っている所につけ込むのは間違っているとわかってる。わかってるけど……。
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モック - 完結おめでとうございます!物語中の春千夜君がかなりヤバくて(語彙力www)最高でした! 応援してます! (2022年9月24日 10時) (レス) @page50 id: 17f5259717 (このIDを非表示/違反報告)
さきな。(プロフ) - 来夢さん» コメントありがとうございます!本当に嬉しいお言葉ありがとうございます。大変恐縮です……!これからも面白いと思って頂ける作品が書けたらと思います! (2022年2月19日 0時) (レス) id: 74c94643cf (このIDを非表示/違反報告)
来夢(プロフ) - 完結おめでとうございます、そしてお疲れ様でした🙇♂とても最高でした!私にはこんな神作作れないので羨ましい限りです😭あ、作者様の春千夜くんドタイプでした!これからもずっと応援させて頂きますので、よろしくお願い致します🤲 (2022年2月15日 3時) (レス) id: e2197c2b6d (このIDを非表示/違反報告)
さきな。(プロフ) - 楸さん» コメントありがとうございます。自分にとっても楽しくかけた小説でした♪スランプに陥って書いては消してを繰り返しておりますが、自分の納得した作品が出来て書き続けられたらまた別作品を見ていただけたらと思います。 (2022年2月14日 1時) (レス) id: 74c94643cf (このIDを非表示/違反報告)
楸(プロフ) - 完結おめでとうございます!!マジで最後の方はあ゛あ゛泣って感じで一人で焦ってたんですけど、あらぁ!!って終わり方でもう兎に角大好きです!!語彙力が行方不明になるくらい素敵な作品ありがとうございました!! (2022年2月14日 1時) (レス) id: 94f21122e4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さきな。 | 作成日時:2021年12月12日 0時