帰宅したら家が燃えておりまして。【三途春千夜】

16　躊躇い ページ17

去り際に今度からは灰谷さんじゃなくて名前で呼んでって言われてしまったので、今度もし偶然会ったら名前で呼ばなくてはいけなくなってしまった。

この数日間でキャラが濃い人達と出会い、目まぐるしく物事が進んでいっている気がした。

三途さんの家に帰ると、既に三途さんが帰ってきていたようで雑に脱がれた靴が転がっている。その靴を揃えた後に私も靴を脱いで揃えた。

「三途さん帰ってるんですか……？」

玄関から声を出してみても返事がない。お風呂にでも入っているのだろうか。部屋の奥まで足を運ぶとソファに横たわっていた。どうやら眠っているようだ。

シャワーを浴びた後だったようで、いつもサラサラな髪は濡れっぱなし。タオルケットも毛布もかけていない彼の無防備に晒した身体は湯冷めしてしまっているのではないかと思い、彼のベッドから毛布を持ってきてかける。

私はキッチンへと向かおうとすると彼の低い声が背後から聞こえた。

「余計な事してんじゃねえよ。」

「あ……起こしちゃってすみません。でも風邪ひいちゃうかなって。」

「俺がそんな貧弱に見えんのか？」

「……普通に心配しただけじゃないですか。」

寝起きだからかすこぶる機嫌が悪そうだ。何を返しても売り言葉に買い言葉になってしまいそうな予感がしたのでこれ以上は何も言わないようにしようとキッチンへ向かった。

今日は和食が食べたい気分だったので和風サラダと焼き魚とみそ汁を作る事にした。お米は買い物に出る前に炊いてあったから準備は万端。定番食がなんだかんだ1番満足度の高いご飯のメニューだ。

まな板と包丁を取り出し、サラダの野菜を袋から取り出して水洗いをしている途中。三途さんがまた猫のように気まぐれにフラッと現れて後ろからハグをしてくる。

「今日も疲れたんですか？」

「……。」

問いかけても何も言ってはくれなかった。普段と少し違った様子が伺えたので、今はただ黙ってハグをされたままになっていた。

反社の人とはいえ……やっぱり人間だ。誰かに寄りかかりたい時だって、きっとあるのだろう。

三途side
……コイツ、本当にどこまでお人好しなんだよ。『心配した』なんてもう何年も言われてねえな。

Aが俺等の組織と無縁だからこそ、俺がコイツを殺す事はないとわかっている。でも、もし俺が殺した雑魚をAに置き換えて殺すことになったら。

……俺はもしかしたら引き金を引くことに躊躇いが生まれるかもしれない。

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