1 たとえば貴方と ページ1
「日向さん」
この人はいつもそう。
声に出さず、大抵背中で返事をする。
真っ赤な法被を肩に掛け、足を組んで真っ直ぐどこかを見据えているその姿は、いつ見てもなんとなく近づき難い雰囲気を醸し出していた。
「ご飯、ここに置いておきます」
派手に暴れたその後は、この人に近づくのでさえ恐ろしい。前に一度、MUGENの元メンバーと喧嘩して暴れに暴れたその後、同じ達磨一家の下っ端がノリで日向さんに絡んで両腕第二関節その他諸々を骨折、全治4ヶ月という悲惨な目に遭ってしまったのを見てからは余計に恐ろしかった。
日向さんが興奮が冷めないままで非人道的な行為に走ったのは一度に限らず、私が見ただけで三度も。
…とまあ、ここまで考えればもう十分だろう。お盆の上に、ラップをかけた状態で置かれた晩御飯を日向さんの背後に置いた私は、その場から逃げる様にして踵を返した。
すると。
「……A」
それを呼び止める日向さんの声が小さく部屋の中で反響した。そして同時に、負傷した相手が今も無残に横たわっているのが見える外へとと通じる扉が、ピシャンと一思いに閉じられる。
外にあるドラム缶の中で激しく燃える炎が辛うじて中への灯りになっていたものの、閉じてしまえばそんなものは関係ない。
光源が消えた薄暗い部屋の中で、日向さんの方を見つめながらぎゅっと強く服の袖を握った。
…暗がりに遮られて、日向さんの表情が見えない。どことなく距離感も曖昧で、近くにいるのか、それとも思ったより遠くにいるのかすら分からない。
床の軋む音が少しづつ近づいてきて、とうとう耳元で声がした。
「今日は20人やった」
「に、じゅう…………ですか」
頰に流れた髪を耳にかける日向さんの手は熱くて、そしてうっすらと血の匂いがした。
それでも耳に触れる手つきはとても優しいものだったのだ。
だからもう、怖がらなくてもいいのだろうかと一瞬油断をして、肩の力をふっと抜く。
「お前を抱くくれぇの気力はあるよ」
「、わ…!」
頰に触れていた手が後頭部へと移り、髪を柔く抱きかかえるようにして胸へと引き寄せられる。
鈍く輝くネックレスの冷たさが肌に伝わって、ほんの少し肩を揺らすと、その肩をもう片方の腕で抱き寄せた日向さんは独り言のように呟いてみせた。
「足りねえよ」
ー…いつか貴方を、 心から思える日が来たのなら。
その時は 私が貴方を目一杯抱きしめることができるというのに。
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えく(プロフ) - 綾花さん» はじめまして!ありがとうございます〜^ ^頑張ります!コメントありがとうございました。 (2017年9月4日 0時) (レス) id: 4af89cc856 (このIDを非表示/違反報告)
綾花(プロフ) - ここの日向くそかっこよくて大好きです!!更新頑張ってください!!胸キュンさせてください!!^^ (2017年9月2日 10時) (レス) id: a645f6c835 (このIDを非表示/違反報告)
えく(プロフ) - こしゅーさん» わ〜〜っ 嬉しいです!マイペース更新ですが楽しみにしていただければ幸いです^ ^ こちらこそ溺愛衝動、よろしくお願いします。コメントありがとうございました! (2017年8月30日 13時) (レス) id: 4af89cc856 (このIDを非表示/違反報告)
こしゅー(プロフ) - このお話大好きです!!今一番更新待ってます!ほんとに、日向さんにいちいちやられます… これからも、えくさんのお話、えくさんのファンでいさせてください!! (2017年8月30日 0時) (レス) id: ce268402e9 (このIDを非表示/違反報告)
えく(プロフ) - 小麦さん» 本当ですか…!ありがとうございます、とっても嬉しいです^ ^ 改めましてコメントありがとうございました! (2017年8月29日 21時) (レス) id: 4af89cc856 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:えく | 作成日時:2017年8月21日 1時