心・躰 (ページ32)

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K ページ32

突然、海からの冷気を含んだ潮風がヒューッと吹いて、ハッと我に返る。

思わず隣の藤ヶ谷にすり寄れば、「寒い？」と心配そうにオレに顔を向ける。

「あっ…いや、大丈夫…。綺麗だなぁと思って…」
慌ててそう言えば、

F「そうだね。キレイ…」と呟く。

「・・・・・。」

「綺麗なのは藤ヶ谷…」
とも言えず、オレは一人赤くなって俯いてしてしまう…。

F「…そろそろ行く？」藤ヶ谷が不意に言う。

「え…っ！？」
行くってどこに…？驚いて顔を上げると、

F「寒いし…暗いし？そろそろ移動するかなって」

えーー！？
嘘っ！海もう終わり！？ちょっと短くない！？
そりゃこの時間の夜の海だもん。寒いし、暗いよ…
でも二時間近くかけて来て、滞在時間が…10分って
…っ藤ヶ谷さん！？

オレの困惑した表情に気づいたのか、藤ヶ谷が付け加える。

F「別に帰る訳じゃないよ？ほら、あそこさ、ホテルとか旅館だよね？お店とかもあるだろうし…行ってみない？」

そう言って、さっきまで熱心に見ていた海岸沿いの方向を指差す。

「うぅ…」
オレとしては、ちょっと浜に下りてみたかったんだけど…。

F「あそこからでも、海は見えると思うし…？」
藤ヶ谷がニコリと笑って首を傾ける。

…カッコ可愛い過ぎる…。

F「何か美味しいもの食べよ？」

…ハッ！出たな…！何か美味しい物…。
そう言えばオレが簡単について行くと思ってんな？
なんか…悔しい…。

「なぁ…。オレちょっと浜を歩きたいんだけど…」

変な対抗意識が湧いてきて、
「お願い？」「駄目？」と聞くように藤ヶ谷を見つめて、こっちも首を傾けてみる。

F「・・・・・。」

ちょっと微妙な顔をしたけど、すぐに

F「わかった。いいよ…」

と優しく言って、オレの腰に手を添えたまま、砂浜へと続く階段に歩いて行く。

F「北山、暗いから気をつけて…」

「う、うん。ありがと…」

藤ヶ谷に手を引かれながら、階段を一段一段、下りて行く。
なんか…孫にお世話してもらってるおじいちゃんみたい…。

結局、藤ヶ谷に我儘を聞いてもらって、夜の砂浜に降りる。
風がさっきよりも強く吹いて、波の音もはっきり聞こえる。
ゆっくりと歩き出せば、砂を踏む感触が心地良い。

夜景を見に人が来ていそうなのに、オレ達以外誰もいない。
沖の方に続く防波堤には、夜釣りの人が数人いるだけ。

藤ヶ谷と手を繋いだまま、波打ち際まで進む…。