心・躰 (ページ31)

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K ページ31

家を出てから約二時間。
海が見渡せる高台の駐車場に車が停まる。

「う～ん」と伸びをしてドアを開け、痛む腰を庇いながら不恰好に外に出ようとすれば、先に出ていた藤ヶ谷が慌てて近づいてくる。

F「大丈夫？」

「おっ、サンキュー」
差し出された藤ヶ谷の手につかまって、ゆっくりと車から降りる。

辺りは街灯も無く暗かったけど、月も星もとても明るくて、藤ヶ谷の顔もはっきり見える。
風が吹いて少し肌寒い。
潮の香りがして、波の音が静かに聞こえる。

藤ヶ谷と並んで駐車場の柵に手を付き、海を見下ろす。

真黒な海を、白い月が明るく照らしている。
砂浜には誰もいなくて、風が強い割に、波は穏やかだ。
丘の上には灯台があって、青白い光がくるりくるりと回っている。
少し離れた海岸沿いには、高層のホテルやリゾートマンション(？)が沢山建ち並んでいて、その明かりが暗い海に映ってユラユラと揺れている。

「…おーっ！すげー…」

幻想的な夜の海に、オレのテンションはすっかり上がっていった。

藤ヶ谷に半ば強引に連れてこられたけど…来てよかった！
久し振りのドライブも楽しかったし…。
途中ちょっと喧嘩っぽくなっちゃったけど…。

知り合って十年以上経つけど、未だに藤ヶ谷の怒りポイントが良く分からない…。
まぁ…オレ無神経な所があるから、気がつかないうちに、デリケートなアイツの事怒らせちゃうんだろうな…。
時々、すごい怖い顔でオレの事睨んでるし…。

さっきの夜景だって…ちょっとベタだったけど、思考が基本乙女な藤ヶ谷なら喜こんでくれるかと思って言ったのに…。逆にキレられちゃったよ。
…女子ヶ谷…。謎だな…。

そんな事を思いながら、隣の藤ヶ谷をチラリと盗み見る。

でも…やっぱり優しいよね…。

今日だって疲れてるはずなのに、こんなに遠くまで連れて来てくれて。
オレの身体も気遣ってくれる…。

さっきから藤ヶ谷の手はオレの腰に回されていて、ずっと支えてくれている。

普段は恥ずかしくて中々言えないけど、藤ヶ谷には本当に感謝してる…。

いつかちゃんと伝えたい…。
「ありがとう」って素直に言いたい…。

藤ヶ谷もこの景色に目を奪われているのか、無言で周囲を見渡している。
月に照らされて、藤ヶ谷の高い鼻や、男らしい喉仏が一層引き立っている。

その横顔は、どこかの偉い芸術家が創った彫刻の様で…。
オレはしばらくの間景色ではなく、じっと藤ヶ谷の事を見つめていた…。