許嫁を迎えに行きます【2】 (ページ29)

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お互い何も言わない

そんな空間がしばらく続いて

ただ握られてる手

離れないとか離さないとかじゃない

自分たちだけでは離れられない。

そんな縛られた関係とは裏腹に

自分の意思で手を出して自分の意思で握って

自分の意思で離さない。

今私たち自由なんだねって

ちゃんと心で繋がっている気がして

また涙が出そうになるけど

ぼーっと考えている間に

こうやって自分たちの意思で繋がっているのに

それさえも誰かの策略なんじゃないかって

そう思えてきて、そう思う自分が心底嫌になる。

「眠い？」

『んーん』

「もういい時間だよ」

『最近勉強で夜更かししてたから』

「ごめんね。大変だよね」

『Aならできる頑張れって言って頭撫でて』

苦手な勉強も北斗君に頑張れって

言われたら頑張れる気がする。

親のためとか祖父母のためとかじゃなくて

自分のために北斗君のためにってそう思える。

「これ以上頑張らなくてもいいよ」

『違う。頑張ってって言ってほしいの』

これは私のわがまま。

頑張らなくてもいいよは優しさって分かってるけど

頑張りたいの。

ただ、自分のために頑張りたい。

矛盾してる自分の感情がどこにあるのかわからない。

「でもそれでAが悲しい思いするの嫌だよ」

「医者にならなくてもいいよ？」

『やだ。そんなこと言わないで』

『仮に医者になるのやめたら北斗くん
　別な女の子と結婚しなきゃだよ』

「Aといるよ？」

『みんなのこと思うとそんなことできないよ』

医者になるのが嫌なんじゃない。

継ぐとか継がないとか

自分を道具のように扱われるのが嫌なだけ

反抗したくて少しでも思い通りにならまいと

もがいているだけ。

でも北斗君と離れたくないって

思っちゃったから。

この人の大切な人に守りたい人に

なったから意地でも医者にならなくちゃいけない。

継がないくせに2人で一緒にいるなんて

到底許されないし、それができるほど

図太い神経もしていない。

だから北斗くんが頑張らなくていいって言うと

結婚もいらないって、お前もいらないって

言われてる気がして辛くなる。

彼の言葉をまっすぐ受け入れることができれば

こんな気持ちにならないのかもしれないけど…

絡まり合った色んな感情が解けることなく

ただ温かい彼の手を眺めているうちに

意識を手放した。

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