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咄嗟に握られていた手を振り払った。
獣のような瞳孔をした双眸が、私を見下ろしている。
ふらふらとおぼつかない足取りで橋の欄干に寄りかかってうずくまる。身体が言うことを聞かない。立って、走って、この場から逃げ出さねばならないというのに、うまく足が持ち上がらない。膝が病的なほどに笑う。
酷い夜に相違なかった。
ぼたぼたと玉のような汗が鉄筋コンクリートの橋の上に落ちた。肺腑が酸素を拒絶する。ひゅうひゅう、と喉から空気の抜ける音ばかりが漏れた。
「《ねえ、橋を渡ろうよ》」
そんな私の様子を気にも留めず、角名くんはそう言って私の前にしゃがみこむと腕を取った。
この目の前の彼は、ひと月前のあの日、私の“夜”を食べてしまった。この橋を渡った先で。今日と同じような夜に。
次渡れば、命はない。
「も、う……歩けない……帰りたい……」
「《立ち上がって》《行こう》《約束したよね？》《俺と渡ろう》《裏切らないでね》《早く》《早く》」
視界でちらちらと提灯の灯りが揺れている。息が切れる。腕を強く引っ張られた。角名くんの指が腕にぎりぎりと食い込む。
「まだ……まだしにたく、ない」
ゆるゆると力なく首を振った私を見て、角名くんは心底不思議そうな表情を浮かべた。
「どうしてそんなに死ぬのが怖いの？」
「みんなが、私のこと……わすれてしまうから、」
オレだけはAのことずーっと覚えててあげられるのに。やっぱり人間ってみんな変だ。角名くんはまるで私の畏怖を理解し得ないようだった。
一瞬のまばたきの中で、角名くんの頭に、獣のような一対の耳が生えていたように見えた。次の瞬間には元に戻っている。
ああ、私は狐に今化かされているのだ。直感がそう耳打ちした。
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［ハコナカ］(IN THE BOX)(プロフ) - おこわさん» 雰囲気を楽しんでいただけたようで何よりです！ありがとうございました〜！ (2020年6月1日 12時) (
レス) id: 4fd7cad6f6 (このIDを非表示/違反報告)
［ハコナカ］(IN THE BOX)(プロフ) - ひーとさん» 虜囚とこの話は繋がってるので要素入ってます！楽しんでいただけて幸いです(*≧∀≦*) (2020年6月1日 12時) (レス) id: 4fd7cad6f6 (このIDを非表示/違反報告)
おこわ(プロフ) - 仄暗い怖さと引き込まれるような文章、とても素敵でした！非常に面白かったです！ (2020年5月31日 21時) (レス) id: f852f9d302 (このIDを非表示/違反報告)
ひーと - 面白かったです虜囚の内容が若干入ってます？今回の作品も最高でした！ (2020年5月31日 20時) (レス) id: c8f6957e50 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：［ハコナカ］(IN THE BOX)
| 作者ホームページ：
作成日時：2020年5月31日 19時
