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「ねえ、角名くんの好きな子って……まだ生きてるの？」
「魂は半分になっちゃったけどちゃんと生きてるよ」
魂が半分になることの弊害など私にはとんと見当がつかない。提灯を掲げて先を歩く彼が人殺しをするとは到底思えなかったが、今の言動を見れば否定もできなかった。
「なんで分かるの」
「魂で繋がってるから。それに、」
いつもよく近くで見てるから。角名くんは淡々とそう語る。
彼が半分食べてしまったその子は、私の身近な人間なのかもしれない。クラスメイトなのかもしれない。若しくは…………。憶測がやかましく身体中を駆け巡って、嫌な汗が首筋を伝ってはTシャツに吸い取られた。
「半分だけ魂が残った状態なんてその子もちょっと可哀想だね」
「Aもそう思う？中途半端は良くないなって前から思ってたから安心した」
満足げに角名くんは頷いて、さらにその歩みを進める。その表情の真意がうまく読めない。
通りかかったシャッターが閉まった古ぼけた店の前に置かれた、苔だらけで濁った水槽の中の金魚が、生きているか死んでいるかも定かでない目をこちらに向けていた。
やがて私たちは稲荷神社のそばを流れる川の近くまでやってきた。コンクリートでできた欄干の低いその橋の下で、渓流が滔々と波打つように流れている。
あともう少しで神社に着く。怖いけれど前に進まなくては。強迫観念じみた何かが私の中ではち切れそうなほど膨らんでいる。
一歩。
ずきり、とこめかみが痛みで悲鳴を上げ始めた。
二歩。
足場が揺らいだような錯覚に襲われる。
三歩。
視界がぐるぐる回った後のように定まらず、気持ち悪さで橋の中腹に来たところで思わず足を止めた。身体が思うように動かない。
「A、どうしたの」
角名くんが心配そうに私の顔を覗き込むものの、変わらず私の手を強く引いている。
「なんか……気持ち、悪い」
「大丈夫？」
「これ以上、歩けない、かも……」
私がそう言った瞬間、角名くんの目の色が変わったのが私の目にははっきりと分かった。その瞬間だった。
フラッシュバック。
脳裏にフィルムのように焼きついたその記憶が、知っているはずなのに忘れていたその記憶が、堰を切ったように流れ出す。
薄暗い橋の上。誰かに手を引かれて私は橋を渡った。明かりの灯った赤い提灯。笑い声。甘い囁き。苦痛。そして、夜の喪失。
「……思い出しちゃった？」
「なにを、したの」
「何って、Aの魂を食べただけ」
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［ハコナカ］(IN THE BOX)(プロフ) - おこわさん» 雰囲気を楽しんでいただけたようで何よりです！ありがとうございました〜！ (2020年6月1日 12時) (
レス) id: 4fd7cad6f6 (このIDを非表示/違反報告)
［ハコナカ］(IN THE BOX)(プロフ) - ひーとさん» 虜囚とこの話は繋がってるので要素入ってます！楽しんでいただけて幸いです(*≧∀≦*) (2020年6月1日 12時) (レス) id: 4fd7cad6f6 (このIDを非表示/違反報告)
おこわ(プロフ) - 仄暗い怖さと引き込まれるような文章、とても素敵でした！非常に面白かったです！ (2020年5月31日 21時) (レス) id: f852f9d302 (このIDを非表示/違反報告)
ひーと - 面白かったです虜囚の内容が若干入ってます？今回の作品も最高でした！ (2020年5月31日 20時) (レス) id: c8f6957e50 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：［ハコナカ］(IN THE BOX)
| 作者ホームページ：
作成日時：2020年5月31日 19時
