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「A、あったよ」
それからしばらくして、電柱の陰に隠れるようにして佇んでいた狐火を角名くんが見つけた。
青い炎はゆらゆらと逃げるそぶりもなく漂っている。
そういえば、人ならざるものを見たいときに使うあの手遊びは一体何だったか。それを使って見れば狐火以外にも色々見えたかもしれない。喉元まで出かかったそれはなかなか出てこないので頭の隅に追いやった。
「どうして炎なんだろう」
私の口を突いて出た質問を聞くと、角名くんは狐火を素手で掴んだ。火傷するのではないかと思ったが、角名くんは表情ひとつ変わらない。
「見て。これが人の魂だよ」
角名くんが手にしていた狐火の炎を手で払ってしまうと、そこには拳より少し小さいくらいの鈍色に光る鉱石が乗っていた。石の表面からはパチパチと火の粉が時折舞う。
「熱くないの？」
「全然。空気と擦れて炎が出るだけで、本当はこういう石みたいな形してるんだよ」
「魂って目に見えるものなんだ」
「外に取り出さないと普通は見えないよ。けど生身の人間から無理やり魂を取り出そうとすると痛みのあまり発狂して死ぬとかなんとか」
でもね、これ。すごく美味しいんだよ。角名くんはきゅ、と目を細めてその鉱石を掲げて眺めている。その黒々とした瞳には如何にも恍惚が含まれていた。今にも口に放り込んでは、噛み砕いて嚥下してしまいそうであった。
「……美味しいって、食べたことあるみたいな言い方」
「あるよ、一回だけね」
冗談とも真剣ともつかぬその声音が、今はとてつもなく恐ろしいものに違いなかった。
「好きな子の魂を半分に割って食べたんだ。無色透明で、ガラス玉みたいに綺麗だった。舌の上で転がすとどろどろに溶けて、この世のどんな甘いものよりも甘くて、美味しくて、綿あめみたいにすぐなくなっちゃった」
「…………冗談、だよね？」
「どうだろうね」
嫌な汗が背中を伝っていった。刻は既に丑三つ時を回っている。
私の言葉をうまくかわして、角名くんは手の内にあった魂の石を軽く振った。するとまた表面から小さな炎が広がっていって、彼はそれを持っていた提灯の中にそっと入れて蓋をした。薄ぼんやりとした燈が提灯の中に灯った。
「じゃあ、神社まで行こうか」
せり上がった恐怖を吐き出すこともままならぬうちに、私は強く手を引かれて行脚を続けるほかなかった。
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［ハコナカ］(IN THE BOX)(プロフ) - おこわさん» 雰囲気を楽しんでいただけたようで何よりです！ありがとうございました〜！ (2020年6月1日 12時) (
レス) id: 4fd7cad6f6 (このIDを非表示/違反報告)
［ハコナカ］(IN THE BOX)(プロフ) - ひーとさん» 虜囚とこの話は繋がってるので要素入ってます！楽しんでいただけて幸いです(*≧∀≦*) (2020年6月1日 12時) (レス) id: 4fd7cad6f6 (このIDを非表示/違反報告)
おこわ(プロフ) - 仄暗い怖さと引き込まれるような文章、とても素敵でした！非常に面白かったです！ (2020年5月31日 21時) (レス) id: f852f9d302 (このIDを非表示/違反報告)
ひーと - 面白かったです虜囚の内容が若干入ってます？今回の作品も最高でした！ (2020年5月31日 20時) (レス) id: c8f6957e50 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：［ハコナカ］(IN THE BOX)
| 作者ホームページ：
作成日時：2020年5月31日 19時
