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「ふーん、あっそう…………別に行ってもいいよ」
「本当！？」
「…………いいから、早く行くよ」
自分でも思ったよりぶっきらぼうな声音で答えて、オレは港の方へ歩き出した。
＊
船着き場のあったコンクリートの護岸壁がどんどん小さくなっていく。
「すごーい！ね！あそこに見える灯台このあいだ行ったよね！」
彼女の縁結びのために30分以上も歩くのは何故かものすごく癪に触った。
だから、渡し船を使うことにした。金が少しかかるが、海の上を突っ切ってしまえば、10分程度で向こう岸に着いてしまう。
Aは渡し船の水先案内人が話す天の川伝説に目を輝かせて聞き入っているが、こちらはとてもじゃないがそんな気分ではない。
この苛立ちの原因は、きっと頭の片隅では分かっている。けれど、どうしても認めたくなかった。この感情に名前なんかつけてしまえば、この関係性は足元から瓦解してしまう。
「倫太郎……？なんか怒ってる？」
「…………別に怒ってないよ」
「本当に？」
「本当に」
誤魔化して、言い聞かせて。それは自分にそうしているのでもあるけれど。
着きましたよ、という水先案内人の言葉に少し救われたような心地で、オレたちは船を降りた。
「200段って結構大変だね…………」
「帰りたい…………」
崖の上にある神社を目指して200段の石段を登りきる頃には、二人とも満身創痍の体だった。境内に辿り着くまでのこの地獄のような石段登りをすっかり失念していたのだ。
「涼しいね、なんだか違う世界に来たみたい」
鬱蒼とした森の中にある境内は、ひんやりと湿った風を通している。
異世界に迷い込んでしまったかのように、神社の中は人っ子ひとりいない。
「さっさとお参りして戻ろう」
ぞわり、と背中に何か冷たいものを流し込まれたような、そんな予感めいたものが走って、オレは彼女を急かした。
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［ハコナカ］(IN THE BOX)(プロフ) - ひなさん» ひなさんにそう言っていただけるなんて嬉しいです…季節描写には力を入れたつもりなので… 裏返しの夏が完全にバイブルでした、ありがとうございます！ (2018年11月15日 7時) (
レス) id: baa2eb420e (このIDを非表示/違反報告)
ひな(プロフ) - 不確かで淡いひと夏の思い出と約束、縛られてプリムラを枯らす倫太郎くんが切ない……時の経過を花で表現する表現力にひたすら泣きました。短いながら濃密で、画面外の夏までひしひしと伝わるこの感じをエモという陳腐な言葉でしか表現できないのがもどかしいです。 (2018年11月14日 19時) (レス) id: b56c38f9b7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：［ハコナカ］(IN THE BOX)
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作成日時：2018年11月14日 19時
