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「ありがとう」オレは光の眩しさに目を細めてそう言った。

「またね」彼女は西日の逆光の中で手を振った。









昨日のあの言葉に、一縷の望みを抱いた。
今日もあの場所に行けば、Aに会える気がした。


小学生の頃に戻ったかのようだった。
日が暮れるまで色んなところを走り回って遊んで、「また明日」とそれぞれの家に帰る。

今では忘れてしまったような記憶だが、Aはそんな懐古に浸らせるような雰囲気を持っていた。




いつもならおそらく絶対に行かない。
暑くて汗で背中がベタベタするような炎天下の下を行こうなどとは思わない。

けれど、それ以上に興味と期待が勝った。



また、彼女と話してみたいと思った。



また同じ公園のベンチの上に寝そべって、長さを持て余した脚を肘掛けに乗せて伸ばした。木漏れ日がゆっくりと瞬いている。木陰はまだ涼しい。瞼を閉じる。砂浜とは反対方向の、芝生を踏みしめる足音がする。


足音は目の前で止まると、オレの顔に影を作った。なんとなく相手は分かる気がしたけれど、あえて目を閉じたままにしておく。



「倫太郎、倫太郎」



呼びかけられて、初めて目を開ける。



「…………A」
「ああよかった、今日もここに倫太郎が来てたらなって思ってたの。また会えて嬉しい」



彼女はまた、あの麦わら帽子に今度は白いブラウスとくるぶしまでのジーンズを裾を巻いて穿いていた。



キラキラと目を輝かせてこちらを覗き込んだAが「嬉しい」などと、何も臆することなくそういうものだから、反応に困って視線を砂浜の方にやってしまった。

すると彼女はそれを迷惑と受け取ったらしい。


「あっ、ごめんなさい!私何か邪魔しちゃった?私ってばいつも他の人の事情をついつい忘れてしまうの…………」
「いや、別に気にしないで」


ベンチから身を起こして、左端に寄せて座る。手招きをすると彼女は喜色満面でオレの隣に座った。

なんだか犬みたいだと思った。

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[ハコナカ](IN THE BOX)(プロフ) - ひなさん» ひなさんにそう言っていただけるなんて嬉しいです…季節描写には力を入れたつもりなので… 裏返しの夏が完全にバイブルでした、ありがとうございます! (2018年11月15日 7時) (レス) id: baa2eb420e (このIDを非表示/違反報告)
ひな(プロフ) - 不確かで淡いひと夏の思い出と約束、縛られてプリムラを枯らす倫太郎くんが切ない……時の経過を花で表現する表現力にひたすら泣きました。短いながら濃密で、画面外の夏までひしひしと伝わるこの感じをエモという陳腐な言葉でしか表現できないのがもどかしいです。 (2018年11月14日 19時) (レス) id: b56c38f9b7 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:[ハコナカ](IN THE BOX) | 作者ホームページ:   
作成日時:2018年11月14日 19時

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