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足元に落ちた麦わら帽子を顔を上げて拾うと、オレは恐らく風で飛ばされたであろうこれの持ち主を、辺りを見回して探した。
麦わら帽子は少し色がくすんでいて、かなり使い込まれているのが分かる。
すると、砂浜の向こうから、1人の少女が走ってきた。恐らく帽子の持ち主は彼女だろう。
纏っている白いノースリーブのワンピースが、潮風に吹かれて旗のようにたなびいていた。
「それ、私のです！拾ってくださってありがとう」
少女はオレのそばまで来ると、見上げてそう言った。
「あぁ、はい」
どうぞ、と麦わら帽子を元の持ち主の元へ返してやると、少女は帽子についた砂を手で払って、再びそれを頭に被った。
「ああよかった、この帽子大事なものだからなくすかと思ってとっても焦ったの」
あなたにはお礼をしても尽くせない、と話す少女に、オレは随分大袈裟だな、と思いつつも話に相槌を打った。
「あっ、あなたの名前を聞くのを忘れてた！恩人だもの、ちゃんと聞かなくちゃね」
「倫太郎。角名、倫太郎」
「リンタロウ！貴方、リンタロウって言うの？良い名前ね」
潮風に彼女の亜麻色の髪が、ふわりと巻かれた。
「そう？」
「そう！とっても綺麗な響き！漢字はどうやって書くの？」
書いてみて、と急かされて、オレは地面に落ちていた流木を拾うと、砂浜の上に“倫太郎”と書いた。
「君は？」
オレが持っていた流木を彼女に渡すと、彼女は大きく“A”と書いた。
「Aっていうの」
良い名前でしょ、と誇らしげに笑う彼女に、オレはただ黙って頷く他なかった。
そして彼女には何か、オーラがあるような気がしてならなかった。
まるで小説から飛び出してきたような現実味のない、脆く儚い何かのように思えた。
「帽子のお礼がしたいのだけど、何が良いかなぁ…………私に出来ることがあればなんだけど」
Aは麦わら帽子の端を弄りながらそう言った。
別に礼など要らない。しかし…………
ふと、妙案が浮かんで、オレはそれを迷わず口にしていた。
「今暇？」
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［ハコナカ］(IN THE BOX)(プロフ) - ひなさん» ひなさんにそう言っていただけるなんて嬉しいです…季節描写には力を入れたつもりなので… 裏返しの夏が完全にバイブルでした、ありがとうございます！ (2018年11月15日 7時) (
レス) id: baa2eb420e (このIDを非表示/違反報告)
ひな(プロフ) - 不確かで淡いひと夏の思い出と約束、縛られてプリムラを枯らす倫太郎くんが切ない……時の経過を花で表現する表現力にひたすら泣きました。短いながら濃密で、画面外の夏までひしひしと伝わるこの感じをエモという陳腐な言葉でしか表現できないのがもどかしいです。 (2018年11月14日 19時) (レス) id: b56c38f9b7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：［ハコナカ］(IN THE BOX)
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作成日時：2018年11月14日 19時
