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あの時の潮風は冷たさを纏って、一層刺すように吹いていた。


初めて会った時のことを思い出しながら、ベンチに座る。傍らにはプリムラの鉢植えを置いた。それと家から持ってきた赤いリボンの麦わら帽子をベンチの背もたれに立てかけた。



Aが大切なものだと言っていたから、捨てようなどとはとても思えず、実家のクローゼットの中にずっとしまっておいた。

はぁー、と長く白い息を吐く。全て水面の最中に吸い込まれて消える。





一輪だけ残った鉢植えの中のプリムラが風で揺れて、少し雲の多い空の隙間から、光の筋が溢れた。

その瞬間だった。



一層強い風が吹きつけて、飛来してくる砂が痛かったので顔を腕で庇った。風が止み、顔を上げて隣に視線をやると、置いてあったはずの麦わら帽子が忽然と消えている。


目の前に、影が落ちた。



まさか、と思った。もしかしたら、と思った。

ゆっくり顔を上げて、おもむろに口を開く。よく覚えている、あの言葉を。




「それ、オレの大切な人のです。拾ってくれてありがとう」
「あぁはい、どうぞ」




麦わら帽子を被っていた夏の彼女は、すっかり大人びてオレの前に立っていた。



「ああよかった、この帽子大事なものだからなくしたかと思ってとっても焦ったの。倫太郎が持ってたのね」




残夏(プリムラ)、君を待つ。

fin.

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[ハコナカ](IN THE BOX)(プロフ) - ひなさん» ひなさんにそう言っていただけるなんて嬉しいです…季節描写には力を入れたつもりなので… 裏返しの夏が完全にバイブルでした、ありがとうございます! (2018年11月15日 7時) (レス) id: baa2eb420e (このIDを非表示/違反報告)
ひな(プロフ) - 不確かで淡いひと夏の思い出と約束、縛られてプリムラを枯らす倫太郎くんが切ない……時の経過を花で表現する表現力にひたすら泣きました。短いながら濃密で、画面外の夏までひしひしと伝わるこの感じをエモという陳腐な言葉でしか表現できないのがもどかしいです。 (2018年11月14日 19時) (レス) id: b56c38f9b7 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:[ハコナカ](IN THE BOX) | 作者ホームページ:   
作成日時:2018年11月14日 19時

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