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夏まで保たせようと思った。不毛な考えであることは分かっていた。
“プリムラ……特にそのプリムラ・マラコイデスはね、夏に焦がれて咲くんだけど夏まで保たないのよ。少し咲くのが早すぎるのね”
花なんか育てたことはなかったから、種から育てるのは無理だと思ったし、何より彼女に再会した時、花が咲いてなければ意味がないと思った。
“私と倫太郎はいっしょにプリムラを見る！”
あの子供じみた指切りにどうにも縛られている。
つきまとう影法師を振り切りことができない。あの残夏の幻に取り憑かれたように、オレは今ガラにもない鉢植えなんか抱えて家路を急いでいる。
彼女が霞のように消え失せたあの一件から、もう4ヶ月が経とうとしていた。
世間はクリスマスだなんだと赤と緑の捕食を前面に押し出していて、イルミネーションの眩しさに目を逸らした。現実が足早にオレを追い抜いてしまって、どうしようもない焦燥感に駆られた。
＊
あの子はどうあがいても、最寄駅のプラットホームには現れないだろう。そんな確信があった。なのに、目の端ではその面影を探しては追っている。
指先が次第に動かなくなってきて、あまりの寒さにブレザーのポケットに手を突っ込んだ。ポケットの中では開けたばかりのホッカイロが温みを主張している。
電車の中で真正面に座っていた同い年くらいの女子高生を一瞬だけ彼女だと見間違えて落胆してみたり、すれ違ったあの女子高生は少し背丈が似ていたとか、髪の色はもう少し明るかったかな、なんて当てはめて考えてしまう。
らしくないのはよく分かっていた。
いつもは忘れているようでいて、ふとした瞬間に思い出してしまうのが苦しかった。
「なんか角名、最近変やなぁ」
無神経そうな侑にでさえ指摘されるのだから、かなり重症なのかもしれない。そう思った。
プリムラの花弁が一つ一つ鉢植えの黒土の上に落ちていくのを、ただどうしようもなく眺めていることしかできないまま、年を越す羽目になった。
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［ハコナカ］(IN THE BOX)(プロフ) - ひなさん» ひなさんにそう言っていただけるなんて嬉しいです…季節描写には力を入れたつもりなので… 裏返しの夏が完全にバイブルでした、ありがとうございます！ (2018年11月15日 7時) (
レス) id: baa2eb420e (このIDを非表示/違反報告)
ひな(プロフ) - 不確かで淡いひと夏の思い出と約束、縛られてプリムラを枯らす倫太郎くんが切ない……時の経過を花で表現する表現力にひたすら泣きました。短いながら濃密で、画面外の夏までひしひしと伝わるこの感じをエモという陳腐な言葉でしか表現できないのがもどかしいです。 (2018年11月14日 19時) (レス) id: b56c38f9b7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：［ハコナカ］(IN THE BOX)
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作成日時：2018年11月14日 19時
