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なぜ今ベッドにいるのだろうか。Aと神社に行って、それから、それから______
記憶の糸を手繰り寄せようとして、ズキズキと痛む頭にこめかみを押さえた。
思い出せない。神社で眠ったあと、あんな夢を見てしまって。起きたら自分の部屋のベッドの上。狐につままれた気分だ。
格好は昨日のまま。Tシャツに裾を捲ったベージュのチノパン。何があったのだろう。彼女はあのあとどうしたのだろう。
疑問ばかり浮かんでは消えて、怠い身体を無理矢理起こしてベッドから出た。
ふと、右足の先にチクリとした感触が当たって、足元に目をやった。
…………少し色のくすんだ、赤いリボンのついた麦わら帽子が視界に映って、いよいよ眠気は吹き飛んだ。
自室からリビングまで転がり落ちるように降りて、あんた昨日高熱出して帰って来たのに平気なの、と訊ねてくる姉の言葉が耳を通り過ぎていって、麦わら帽子を小脇に抱えたまま家を飛び出した。
お願いだから、嘘だと言ってくれ。
あんな悪夢が正夢であってたまるか。
いつもの海浜公園は、いつも通りの静かすぎる凪を広げている。
息を切らして、いつものベンチに座る。今日は傍らに麦わら帽子を置いて。
彼女はこの麦わら帽子は大切なものだと言っていたのだから、きっと取りにくる筈だ。希望的観測に縋った。
ビロードのような手触りの帽子に巻かれた赤を指でなぞっては、入道雲の向こうに恨み節を吐いた。
木漏れ日の隙間からあの子がやってくることは、それからオレが兵庫に戻るまでいよいよ一度もなかった。
正真正銘、あの子は本当に海に帰ってしまったらしい。
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[ハコナカ](IN THE BOX)(プロフ) - ひなさん» ひなさんにそう言っていただけるなんて嬉しいです…季節描写には力を入れたつもりなので… 裏返しの夏が完全にバイブルでした、ありがとうございます! (2018年11月15日 7時) (レス) id: baa2eb420e (このIDを非表示/違反報告)
ひな(プロフ) - 不確かで淡いひと夏の思い出と約束、縛られてプリムラを枯らす倫太郎くんが切ない……時の経過を花で表現する表現力にひたすら泣きました。短いながら濃密で、画面外の夏までひしひしと伝わるこの感じをエモという陳腐な言葉でしか表現できないのがもどかしいです。 (2018年11月14日 19時) (レス) id: b56c38f9b7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:[ハコナカ](IN THE BOX) | 作者ホームページ:
作成日時:2018年11月14日 19時