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あの海が目の前に広がっている。
オレは一人で砂浜を眺めて、いつものベンチに座っている。
隣をふと見ると、Aがベンチに座っていて、オレをいつもの宝玉のような瞳で見上げている。いつもの光景。
彼女の瞳は太陽に透かすと、青みがかった黄金色のような、向日葵のような色をしていることを思い出した。少し高い鼻梁が通っていて、いつも彼女は異国情緒の漂う雰囲気を醸し出していた。
「倫太郎、私帰らなくちゃ」
二人でしばらく黙って海を眺めていると、Aは急に立ち上がってそう言った。
「帰るって______」
「帰るの。帰らなきゃ」
うわ言のようにそう繰り返す彼女は、そのまま海の方へ歩いていってしまう。
“人間のご先祖様も今ある生き物たちはみーんな海からやってきたって、本にそう書いてあったの！”
誇らしげに語ったあの子の残像が脳裏に焼き付いている。
海から来たから、海に還るというのか。
「何してんの、」
引き止めなければ。直感がそう訴える。
追いかけなければ、あの子は海の中へ____
ワンピースの裾が濡れることもお構いなしに、彼女は沖へと足を踏み入れていく。
「待てって、おい！」
オレも履いていたサンダルを慌てて脱ぎ捨てるとその後を追う。
海水に足を取られながらもなんとか追いついて、Aの腕を掴もうとした手は_______空を切った。
“バイバイ、倫太郎”
そして刹那、彼女は目の前から…………跡形もなく消えた。
ふわり、と目の前を残されたあの赤いリボンの麦わら帽子が海の水面に落ちる。
あの子は、まるで蜃気楼のように。
「_____はあっ、」
ぶつり、と無理矢理テレビのスイッチを切ったように映像が途切れたかと思うと、気がつけばベッドの上にいた。飛び起きて、窓の外にゆるゆると視線をやった。
明るさが目の網膜を焼いた。夕焼けではない、朝焼けの白さが部屋の中まで差し込んでいる。
Tシャツが汗で背中に張り付いて気持ち悪かった。身体中から水分という水分が吹き出して、出て行ってしまった気がする。
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［ハコナカ］(IN THE BOX)(プロフ) - ひなさん» ひなさんにそう言っていただけるなんて嬉しいです…季節描写には力を入れたつもりなので… 裏返しの夏が完全にバイブルでした、ありがとうございます！ (2018年11月15日 7時) (
レス) id: baa2eb420e (このIDを非表示/違反報告)
ひな(プロフ) - 不確かで淡いひと夏の思い出と約束、縛られてプリムラを枯らす倫太郎くんが切ない……時の経過を花で表現する表現力にひたすら泣きました。短いながら濃密で、画面外の夏までひしひしと伝わるこの感じをエモという陳腐な言葉でしか表現できないのがもどかしいです。 (2018年11月14日 19時) (レス) id: b56c38f9b7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：［ハコナカ］(IN THE BOX)
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作成日時：2018年11月14日 19時
