■秋と幻想 ミンギュ ページ10
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窓には大粒の雨が打ち付けていて、同じ場所に留まることなく流れていくそんな秋の夜。
それはまるで私たちをこの部屋に閉じこめ、誰かに見えないように隠しているようだった。
目障りでうるさいと、視覚と聴覚を遮断し、現実を見ることなく眠りにつけたらどれほどよかったことだろうか。
「ごめん俺、告白されて、彼女ができたんだ。だからもうヌナの為に、ご飯作りに来れない」
ミンギュの口から発せられた言葉は、一瞬にして私を暗闇に突き落とす程のものだった。
私は今すぐにでもこの場から逃げ出してしまいたかった。
伏し目がちだったミンギュの瞳はその瞬間たしかに、しっかりと私を捉えていた。
少し目にかかる茶色の髪の間から見つめる視線は、真剣なものだった。
(私は手に入れることが出来ないのに、ミンギュは、ミンギュは、ミンギュはミンギュはミンギュは)
「ミンギュ、なんで……」
思わず私の瞳から涙がこぼれだした。
つい何日か前まで、“好き”と言葉にしてお互いの気持ちを確かめあっていたはずなのに。
次に会う時には告白するから、なんて笑っていたくせに。
舞い上がっていた私が馬鹿みたいじゃない。
ミンギュはぽつりぽつりと話し始めた。
「俺は誰かに必要とされたかった。Aヌナのことが好きだったのは本当」
頭の中を満たしたのは、なんで、どうして、それだけだった。
こんな時でも頭に響くミンギュの声は、私の心を締め付けた。
私がどれほどミンギュのことを好きだったかなんて、1番知っていたのは他の誰でもないミンギュじゃない。
「そうやってミンギュは簡単に私を忘れていくのに、私はミンギュを忘れられないなんて、ずるい、よ」
今更何を言っても、何をしてもどうにもならないことは分かっていた。
一瞬にして行き場のなくなった気持ちが、私を押し潰していった。
(それでも、目の前にいるミンギュを見ると、私を置いていかないでなんて言ってしまいそうで)
「……ごめん」
思い出にすらなれない、
(ミンギュに拭われた涙が服の袖にしみて消えていくように、たしかにミンギュが好きだった)
秋が終わった。
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作者名:一色(ひいろ) | 作成日時:2017年1月31日 2時