3.甘えたさん ページ5
3.甘えたさん
「世一くん…?」
私が名前を呼ぶと、少し反応するも、どいてくれない。
困ったなあ……こうなった彼は、なかなか動かない。
「A…」
「ん?」
私の右肩に顔を埋めた彼は、私の名前を愛おしそうに呼ぶ。
何があったのか、聞いても答えてくれないから、こうして受け止めるしかない。
世一くんが動くたび、首に触れる髪がくすぐったい。ふわっと、シャンプーの香りが香る。キツくなく、程よい香り。この香りが大好きだから、ちょっと嬉しい。
「Aが側に居てくれてよかった」
___はっ?
香りに気を取られていると、世一くんの急な爆弾発言への反応が遅れてしまった。
目線だけ右下に向けると、世一くんの目もこちらに向いていた。
近いっ!!いい匂いする!!顔可愛すぎない!!?
案の定、私の頭の中は大暴れ。パンクしてしまいそうだ。
「ふふっ、A顔真っ赤」
そう無邪気に笑う彼は、まるで少年のよう。
「……もういい…?」
恥ずかしくなって、彼の胸板を押してどけようとすると、「ダメ」と手首を掴まれた。
「Aが居なきゃヤダ、もうちょっと」
……何?この可愛い生き物は。
世一くんは、たまに、こんなふうに甘えたさんになる。
ほんとに急にだから、いつになっても慣れない。そのたび真っ赤になって、振り回されてしまう。
世一くんの丸い後頭部がもぞもぞと動くたび、私の心臓は飛び出てしまいそうで。
ちょっとだけなら………
触れたい、という気持ちが抑えられず、彼の後頭部に手を置いてみる。
すると、彼の動きがピタッと止まって、気付けば私の体は、世一くんの香りで包まれていた。
「っあー、可愛すぎる…」
私の耳元で囁く声が気持ち良くて、つい聞き惚れてしまう。
いや、それどころじゃない。
「世一く…」
「好き」
「好き、大好き」。そう何回も呟く彼の顔は、私の頭よりも上で見ることができない。
「よいちくん、」
彼の胸元をくしゃっと掴むと、それに応えるように、私を抱きしめる腕に力がこもる。
痛くなく、でも、沢山の愛を感じれるくらいの力。
「ありがと、元気出た」
また無邪気に笑う彼は、私から身を離して、去っていこうとする。
気づけば、世一くんの手を握りしめていた。
「A?」
「……ズルいよ、世一くんばっか」
彼の甘えたさんはもう知ってる。でも、私の甘えたさんverは、知らないよね?
今日は、たくさん甘えてしまおう。
すでに顔が真っ赤な彼に。
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ひよいち福(プロフ) - 桜 花芽根さん» わ、コメントありがとうございます!!そのギャップいいですよね~! (2023年1月8日 10時) (レス) id: a715ec8b04 (このIDを非表示/違反報告)
桜 花芽根 - 世一くんカッコいいし、可愛い…! (2023年1月7日 23時) (レス) @page9 id: 6a7e843e24 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ひよいち福 | 作成日時:2022年12月24日 20時